2017/10/08

20171008-09_第25回日本山岳耐久レース・長谷川恒男CUP

コンディションのせいじゃない。なぜなら、同じコンディションでもPBを更新した人がいるから。
年齢のせいじゃない。なぜなら、ずっと年上の人が上位にいるのがトレランだから。

4度目のハセツネにして2番目に遅くゴールした2017年のハセツネ。調子がいいときはいつも、お前は大丈夫だと言ってくれる自分が自分の中にいたけれど、今回はそいつが居なかった。精神と肉体の互助関係が成り立っていなかったのだろうと、一週間経った今振り返っている。
いつもは朝一番に会場に乗り込んでいる。チーム全員がゆったりできるスペースを控え室である体育館に確保するためだ。しかし今回は特に集合時間の連絡も調整も何もしていなかったので、到着はのんびり11時過ぎ。武蔵五日市の駅に着くと既に日は高く、しかも夜間にまた雨でも降ったのか、ところどころに水の跡が残っていた。蒸し暑さの中、セブンイレブンの前で昼食を済ませて会場に向かうも、控え室である体育館の中が暑くなっているであろうことは容易に想像できた。入口近くにチームメイトではない友人の姿を見つけ、一緒に荷物を置かせてもらった後は、手早く準備を済ませてアップをし、12時過ぎにはすぐ列に並ぶことにした。毎度の悩みの種である腹痛は、予め正露丸を飲むことでねじ伏せた。

一昨年のタイムを更新できるとは思っていなかった。かといって、水不足に悩まされた昨年のタイムより遅くなるとも思えなかった。なので、12時間22分(一昨年)〜12時間56分(昨年)の間でゴールできたらいいなと思っていた。それでも優子さんに追い付いたらいいなとか、サキちゃんに負けたくないなとか、そんな対抗心だけはギラつかせていた。きっとそんなのは最も速かった一昨年の自分が今ここに現れたとしても無理なことなのに、分不相応な期待を持って前の方に並んだ。ジワジワと前に詰めながら、しかし心は後ろ体重で不安なままだった。

浅間峠までのタイムの決め手となるかもしれない広徳寺までのスタートダッシュでハセツネがはじまる。一昨年はきっちりお寺まで走りきり、昨年は走りきれずに途中で歩いた。走りきった一昨年は速すぎるパックに入って浅間峠まで無茶苦茶走らされたが、少し温存しようとした昨年は遅いパックに入ってしまって走りたいところも走れなかった。今年は一昨年と同じパターンでいきたい、そう思って広徳寺まではなんとか走りきってからトレイルに入ったのだが、ほんの少し進んだあたりのいつもは渋滞しないはずの登りでピタッと列が止まってしまった。一昨年蜂が出て複数の選手が刺された、道が二つに分かれているところが今年は一本道になってしまって人が詰まったのだ。人が流れるのを待ちながら、ここで優子さんやタケさんと一緒になったが、その後のシングルトラックですぐに離ればなれになった。タケさんの姿はこれ以降一度も見ることはなかった。

変電所の脇の下りで優子さんを抜き、また会いましょうと声を掛ける。調子は良くも悪くもない。強いて言えば、よくわからなかった。今熊神社の登りに差し掛かった頃、今度はサキちゃんと一緒になった。たしか私が追いついたのではなく追いつかれたんだったと思う。途中で私が岩場を使って何人もごぼう抜きし、私とサキちゃんの間にはたくさんの人が入りこんだ筈だったけれど結局またすぐに追いつかれた。彼女に前を譲って私は後ろを追ったが、この日の彼女は分水嶺のときの彼女と違ってレース仕様で、とてもじゃないけれどもう追いつけないし一緒の土俵で闘う相手ではないなと悟ってそのままその勇姿を見送った。重力を感じさせないあの登り方はタダモノではない。

一方、彼女の重力も引き受けてしまったかのように自分の体はめっぽう重い。入山峠には1時間10分くらいで着いたと思うが、ここから先が本当にきつかった。多分、初めてのハセツネでも浅間峠まで立ち止まることはなかった気がするのだが、今回は何度も何度も立ち止まっては息を整えた。途中でいろんな人から大丈夫ですかとか頑張ってとか声を掛けられ、その声の主のひとりは優子さんだった。いつだって脈がすぐにあがってしまうのは自覚していたが、今回は特に酷い。歩いているのに心臓がバクバクいっている。脚は大丈夫なのに呼吸がついてこない。
17:08、ようやく浅間峠に到着
ライトを点灯させようかと思う程度に日が傾いてきた。浅間峠に着く前にライトをつけたことはこれまでに一度もなかった。ちょっとしたアップダウンを気にせずゴリゴリ進み続けた一昨年の自分を今年の自分を重ねては情けなさが込み上げる。どうにか浅間峠に辿り着いて仲間の姿を見つけると、まだ第一CPだというのに泣けてきた。やっと浅間峠、しかしまだ浅間峠。昨年より約20分、一昨年より40分遅い到着だった。そこまで練習していなかったつもりもない、けれど勿論練習したと言えるほど練習したわけでもなかった。とはいえここまで遅くなるのも想定外だった。いろんなものが一気に崩れた。多分もう13時間を切ることも難しいだろうとこの時思った。

大分前に私を抜いた筈の優子さんがまだ浅間峠で休憩をしていた。ここでリタイヤだわー、と彼女に告げられ、私もトレラン人生初のリタイヤが今回のハセツネでもいいんじゃないかという迷いが生じた。「私もとりあえず休んで、少し考える。こんなきつい浅間は初めてだ」と私がいうと、優子さんは「私ももう少し考えよう・・」と答えた。私は優子さんがなんだかんだ言ってきっと先へ駒を進めるのだろうとどこかで期待していたのだけれど、目眩が止まらないからやっぱりリタイヤするといつもの明るい声がそう言った。

私は友人が闘いを止めなくてはならなくなる瞬間を目の当たりにすると、その人の代わりに何としてでもゴールしなくてはならないと思ってしまうようにできているらしい。今に始まったことじゃない。優子さんと固い握手を交わし、長めの休憩を終えて私は彼女の想いを勝手に背負うと月夜見を目指した。

水不足の昨年の教訓を踏まえ、今年は昨年より500mlほど多い2.2L程の水分を持った。1.8Lに塩梅水3袋を溶かしたもの+400mlのマツキヨオリジナルゼリードリンク。ゴクゴク飲むには足りないが、重すぎることもない適当な量だったと思う。浅間峠を出てしばらくはまだ調子が出ず、立ち止まっては休み、1ヶ所どこかで木にもたれて座り、ライトを消して目を閉じたりもした。気温は一向に下がらず、じっとしていても寒くないので、もうこのまま眠って休みたいと思ったりもしたが、そこまでの諦めもつかずに結局1分くらいで再び立ち上がって先を急いだ。もう自分がどこを走っていて次に登りがくるのか下りがくるのか全然わからないぐらいの適当な走り。でも次第に調子はあがってきた。例年以上にガスが出るのが早く、月夜見がまだまだ遠いうちからガスに覆われてハンドライトが必要になった。今回ヘッドライトは初投入のNao初号機と、ハンドライトはいつものGentos閃という構成だったがバッテリーの予備を持たなかった。ヘッドライトとハンドライトのどちらかが生き残るだろうから、金比羅尾根でいずれかの光量が減っても、いずれかのライトで下れるはずだと思っていた。しかしこんな手前からヘッドライトを使う羽目になるとは想定していなかったので、不安がよぎる。

昨年は水切れを起こして辛く長かった三頭山の登り。今回はいつも通りグイグイと人を抜きながら登り切ることができた。浅間峠で諦めなくてよかった。
21:18すぎ、ようやく月夜見に到着。途中でタイムは諦めていたし、今自分のタイムが早いのか遅いのかよくわからなかったし特に調べようともしなかった。仲間からは「まだサブ13いける!」と言われたけれど、感覚的にはまぁ無理だろうなとも思っていた。全然無理していないので顔色も良く、何と競っている訳でもなかったので気が楽だった。普通に楽しいなと思った。浅間峠でトイレに行ったので月夜見ではトイレをパスしてそのまま先へ進むことに。序盤で切れたスパッツのゴムが鬱陶しいので外したい外したいと思いながら、結局浅間峠でも外し忘れ、月夜見でも外さずにまたスタートしてしまったけれど、まぁまた途中で立ち止まって外すのも億劫なのでそのままにした。

水500mlとポカリ600mlをハイドレーションに、水を手元のフラスクに400ml入れてもらって水切れの不安もなくなった。フラスクには再び塩梅水を入れて少し濃い目のを美味しく飲んだ。塩梅水は飲みづらいように作られているらしいが、自分にとってはとても美味しくてついグイグイ飲んでしまってよくない。すこぶる元気な私は御前山もあっという間に登りきってしまい(何か別の小さなピークかなぐらいの感じで到着したら御前山だった)、あっけなく所謂「ラスボス」が終わった。あれれ?こんなんだっけ?これ終わったらもう大ダワで、大岳山で、金比羅で終わりだよねぇ?

御前山を慎重に下り、大ダワに着くとTop Speedとジェルを飲んで再び山へ。ヨッシャと自分を鼓舞しないと再スタートを切れない程に疲れてもいない。兎に角頑張っていない感じ。完全にマイペースで、相手が誰もいない感じだった。これはレースなのか?なんなのか。。。なんか一人でトレランしに来ているようなそんな感じだ・・

大岳山の登りも相変わらず普通で、走れるところは走りながら進んでいたが、サブ12.5とサブ13.5では人数がだいぶ違うようで、今回は自分の周りに人が多く、思うように走れなかった。かといって、積極的に抜こうという感じもないので、いよいよ遅くてストレスになる人だけ抜かせてもらってあとは適当に流していた。うーん、レースってこんな感じじゃないよなぁ。綾広の滝での給水は何人か順番待ちをしたが、もう先を急ぐ旅でもないので600mlくらい給水していった。もやもやしながらもどんどん調子は上がってゆき、長尾平手前の上り坂も脚がズンズン前に出てほとんど止まらずに走れた。うわぁ、なんだこれ!こんなに走れる脚があるなら最初から頼むよ!といっても後の祭り。ガスガスで景色のない日ノ出山山頂を過ぎると一気に金比羅尾根を駆け下りた。尾根にさしかかるとすぐにガスは切れ、ようやく姿を見せた夜景は相変わらず綺麗だった。ガスに遮られて遠方を照らしてくれなくなっていたNaoも、最後は不完全燃焼を払拭するかの如くに明るくトレイルを照らしてくれた。因みに、水は最後全部きれいに飲みきっていたので、綾広の滝で汲んでおいて正解だったみたいだ。
浅間峠のあの体たらくからしてみたら、ゴールできただけでも万々歳なのだけれど、それでも13時間半近いって一体なんだこれ。一昨年から一時間も遅いってなんなのだろう。昨年は最後にギリギリ12時間台に滑り込めるかと思ってコンクリートを爆走したけれど、今年はサブなんとかの境目でもなんでもなかったので淡々と降りてきただけだった。サキさんは一昨年12時間59分とかそれくらいで私よりタイムが遅かったにもかかわらず、今年のタイムは11時間19分という仕上がりっぷりだった。完敗だったなぁ。昨年私より遅いタイムでキタタンを走っていた人は今年のキタタンで優勝していて、今年のハセツネでは2位だった。いろんな人に抜かれていくのは、まるで努力不足を晒されているようで本当に恥ずかしいが、まぁ実際努力不足なのだ。私の年齢のせいではない。このスポーツに関して言えば、そこではないのだ。
Year
CP1
CP2
CP3
Goal
2014 3:52:404:15:358:08:154:11:5012:20:052:11:4314:31:48
2015 3:30:403:40:487:11:283:22:3210:34:001:48:0212:22:02
2016 3:49:314:15:048:04:353:14:3311:19:081:37:0612:56:14
2017 4:08:474:09:498:18:363:29:1611:47:521:36:3513:24:27

一昨年のブログを読めば、今回自分に何が欠けていたのかよくわかる。私はレース前に過去のブログをひととおり読んでしまって、ああ今年はダメだなと直観的に感じ取っていた。勿論一昨年は色々と天候などの条件も良く、他のメンバーもかなり良いタイムを出していたのも確かだ。でも一昨年の自分が書いた「最後の瞬間が最上級の感動に包まれるように願いながら、毎日積み重ねていた何か」が今年のハセツネにあったか?答えは自分が一番よくわかっている。このレースを最高のものにしたい、今年の大一番にしたい、そんな想いが足りていなかった。想いが足りないから練習に気合が入らない、そして満足のいく練習ができていないから本番で弱気になる、そして攻め込めない、進めない。心が大丈夫といってくれないから体が動けない、体が大丈夫だと証明してくれないから心も不安になるというこの悪循環。それでもどこかに闘争心は残っていて、体が追いついてくるはずもないのに想いだけが空回りをしていたのが浅間峠までの間の葛藤。その後追い込めればサブ13くらいはいけたのだろうと、後になってタイムを見るとそう思うけれど、追い込むだけのメンタルも脚もなくて結局ズルズル進んでしまった感じ。回を重ねるごとに順調に速くなっているのはCP3からゴールまでの区間だけというのがなんとも・・・

レースを終えて時間が経つにつれジワジワと襲ってくるこの後味の悪さ。私はこんなことのためにレースに出ているのではない。納得のいく走りができないのであれば、レースに出る意味がない。今回はちょっとそこまで考えさせられてしまった。上を目指せばきりがないのはわかっているけれど、でもせめて、自分にできる最大限の走りを本番で出せるように仕上げたい。そうすれば、あの一昨年のようなジワジワくる幸せな後味が楽しめると私は知っている。4度目のハセツネ、またしても新たな感情を呼び起こしやがった。畜生、大好きだ。