2015/11/03

20151031-1101_第23回日本山岳耐久レース・長谷川恒男CUP(後編)

前編はこちら

調子はどうだと応援部隊のジャッキーに聞かれ、興奮気味に「悪くない。悪くないよ」と答えながら給水した大休憩ポイント・月夜見CPを出発する。調子はすこぶる良かったけれど、goodというよりも、なんだかnot badとでも言いたい気分だった。少しぐらいは調子悪かったり、疲れていたりすると思っていたんだけどね、どこも悪いポイントが見つからないんだよ?というニュアンスだったのだけれど、そんなのは絶対伝わっていないw
フォグフィルターを付けたハンドライトで照らすトレイルの圧倒的な見えやすさに驚愕しながら勢い良く下りをかっ飛ばしたあとの登りはとうとうラスボス御前山。月夜見から御前山山頂までの目標タイムは1時間05分、時間にしてみればそれほど長い登りではないけれど、登山地図のCTだと2時間もある、割と長大な登りだ。月夜見でもしゃもしゃと食べたグミなどの固形物はこの登りに備えた補給だった。胃がまったくやられていなかったのは今回の圧倒的な強みだ。

登り始めてしまうと案外あっけなく、やはり自分は登りに強いのだなと思い知らされる。決して速くはない、けれども一切止まらない。止まらないとできない用事があるとき以外は一瞬たりとも止まらない。ひたすら登って登って登り続け、予定通りに御前山山頂に到着した。この山頂はなだらかすぎて山頂感のない山頂だなといつも思うんだよなぁ。ベンチを尻目に特に休憩もせずガレた下りを30分ほど進むと大ダワに到着した。後ろにいる仲間から追いつかれず、前にいる仲間に追いつかぬのなら、もう完全にここからは一人旅だ。追いつかれる可能性は勿論あったが、追いつく可能性はゼロに等しかった。

大ダワはCPではないので、仲間は応援にきていない。しかし大きなリタイヤポイントなので、救護班やボランティアスタッフが多数待機している。一昨年ハセツネに出た時は、このポイントはもっともっと自分にとってドラマティックで、そして肉体的にもキツくて、まだあと20kmもあるのかと精神的にも多少ガックリきていた気がするが、今年は全然違った。時間もまだ22時を少しまわったぐらいだったと思うし、まだまだ日が変わる前だし深夜っていうほど深夜でもないよねーという気持ちの余裕もあった。それに、前回はここからまたひとつ山を登らなくてはならないというイメージだったけれど今回は違う。ここからは「走れるセクション」らしいじゃん?という感じだった。

そう、私はレース直前に、大ダワから大岳山の間は走れると聞かされてきた。道のつき方を地形図で全部見ている訳でもなければ、行ったことがあるからと言ってどんなルートだったか逐一記憶している訳でもないので、山ひとつ越えるっていうのに本当に走れるのかよ、、、と半信半疑だったが、蓋を開けてみたら確かに走れた。私は一昨年このセクションで一体何を苦労していたんだろう?と少し不思議になるくらいフラットなセクションが多く、長いこと走り続けていた。スピードが出せるほど脚が元気な訳でもないのでただただ淡々と歩みを進めるのみではあったけれども、歩くことはあまりしなかった。これが練習の成果というやつなのかもしれない、緩やかな登りは気にせず走った。多少アップダウンがあっても、フラットなんだと脳内変換して走り続けた。しかし長尾平手前の水場に辿り着くと’、つい普通の登山の時のようにのんびり一本入れそうになってしまった。山の水を飲んだ方が元気になるしねーと自分に言い訳をしながら水を飲んでいると、後ろから女性が追い上げてきて一気に抜かれてしまった。嗚呼・・・しかも追いつかない。速い。。。

長尾平到着は23時34分、はじめの貯金を残したままだった。ここからゴールまでの目標タイムは1時間53分、サブ13?いやいやこれは上方修正してサブ12.5狙うべきなんじゃないか?というか・・・上方修正かけるのが遅すぎたなぁ。もっと早く気付いていればサブ12も射程圏内に入ってきていただろうけれど、後の祭り。とりあえず何もなければ普通に12.5は切れそうだったので、きちんと補給して、ロストをせず、足を捻ることなく下ることを心がけた。

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最後の登りともいえる日ノ出山を登りきると、相変わらずの美しい夜景が目に飛び込んでくる。前回のハセツネのことがいろいろと思い出されたけれど、とにかく前回は本当に疲れていたなぁという印象で、それと比べて今回は本当に元気だなとしみじみした。これならきっと最後まで走れるなぁという漠然とした期待。しかしもっとかっとばせるかと思いきや案外そうでもなかったのは自分の力不足なのか、はたまた得意な角度ではなかったのか、石ころの具合が好みではないのか。奥久慈のラストの方がよほど走れたしスピードに乗れたなぁという印象。それでもなんとか走っていると、あっと思った次の瞬間に滑って転んで尻もちついて、右尻に激しい痛みが。

こ・ん・な・と・こ・ろ・で(怒)

もうあと少しなのに!尻もちをついた場所に丁度鋭く尖った岩があったようで、そこにお尻を打ち付けてしまった。切れていないか?流血はないか?前後には誰もいなくて、ひとりでうずくまること暫し。切り傷というほどの外傷ではなく激しめの擦過傷だったのでとりあえず気付かないフリをして進む。痛い、けれどもあと少し。

下りに強い人が次第に追い上げてくる。やはり12時間台のゴールを目指す人に、金毘羅尾根で脚が死んでいるような人は誰もいない。そして私の脚はというと、死んでないけれどもそんなに速くまわりもしない。そしてまたひとり女性がやってきて、抜かれてしまった。また順位が落ちた・・・けれどまったく追いつけないから実力の差だわねーと思って諦めて見送る。みんな強い。

あまり最後の方の記憶が無いのだけれど、最後の00分の補給だけは(また女性に抜かれると悔しいので)すっ飛ばし、そうこうしているうちにあと2kmの看板が現れた。もうじき最後の激下りアスファルトになるなーと思っているとすぐアスファルトセクションが現れたが、それでも私の脚は止まらずに動き続けてくれた。ここ、前は脚が痛くて全然走れなかったんだよなぁ、よく走れるようになったなぁ、と自分の成長を噛み締めながら駆け下りていく。なんか、あれだな、もう終わりか。あっという間だったな。本当に72kmも走ったのかな私?サブ13なんて宣言したからには有言実行したくて、でも不安はあった。やっぱりできないんじゃないかとか、なんだかんだ言ってやっぱりハセツネは難しかった、って、14時間くらいにしかならなくて全然タイム縮まらないっていう展開だってあり得ると思った。でも今これさ、13時間どころか12.5時間切ってるじゃんね。切れるの確定したよね。もう少し突っ込めたかもしれないって今は思うけど、それでもよく頑張ったよ。私が私とダベりながら、ハセツネの最後の1kmを進んでいた。後ろから何人も男性が爆走してきて抜かされて、それでもなんだかもう色々嬉しくてニコニコと笑っていた。コケたし、怪我もしたし、仲間が脱落して心的ダメージを受けたりもしたし、それでも今回心から思うのは、自分のレースができたということ。under controlという言葉が相応しい。思い通りだった。

最後の50mほどをダッシュで駆け抜けるとそこは見知ったあのゴールだった。12時間22分02秒、ポールを2本並べて両手で握って頭の上に掲げ、「あ"ーーーーー!」と絶叫して私の2015年のハセツネは終わった。うるさいw
私が途中で追い抜いたチームメイトには最後まで結局抜き返されなかったけれど、抜いた3人は12時間46分〜55分の間に固まっていたのだから、接戦だったと言えるだろう。
私と25分差程で入って来たジムさんと豚汁(ふたりとも2杯目)。
胃がまったくやられていないのでお腹がすいて仕方がない
photo by Jackieboyslim
お風呂に行くバスも出ていたのだが結局多分誰もお風呂に行かなかった気がする(いつも混みすぎていてお風呂が大変なことになっているので懲りたのかも・・・)。汗拭きシートで体を拭いて着替え、ゴールした仲間達とレースの話をしながら寝袋に入りつつ朝を待つ。興奮のためか眠気はなかった。
身内の最終ランナーは16時間半でゴール。疲れと寒さでついつい体育館に居座ってしまい、誰のゴールも見届けられなかったのが心残り・・・
帰ってしまったメンバーもいたけれど、残っていた仲間で集合写真!みなさんお疲れ様でした!
photo by fuusora-san
ネットのハセツネ速報を見てみると、どうやら年代別で入賞している模様。表彰式は9時からとのことでかなりまだ時間があるけれど、、、やっぱりハセツネの表彰台なんてそうそう立てるものじゃないし立ちたい!!というわけで、時間潰しでアキラさん&ジャッキーと牛丼食べに行ってから再びジャッキーと会場へ戻って表彰式。
1位と2位が帰ってしまってちょっと寂しい感じになってしまったけれど、
だからといって台に乗せて貰えるわけではないw photo by Jackieboyslim
うれしいもんはうれしい。
私にとって今年は、本当の意味でのトレラン元年だったように思う。練習量が増えていたので回復に時間がかかると次のトレーニングができなくなるし、筋肉痛が出ると練習意欲がなくなるからその予防のために6月末くらいからほぼ毎日プロテインを飲んでいた。夕飯を家で食べるときや飲み会などでは炭水化物を摂るのは控え、代わりにできるだけタンパク質を摂るようにした。別に体重も体脂肪も減らなかったけど。また、山に行く頻度が高いとパッキングが早くなって持ち物も行動も無駄がなくなり、前回こうだったから次はこうしようといったようにディテールがブラッシュアップされていくのと同じように、レースに出る頻度を高くしたことで、私の中でのレース対策のノウハウがある程度集中的に蓄積されたように思う。自分がレース中にどんなところにストレスを受けて、どんなときに疲労が溜まって、といったクセも少しずつわかってきた。そして、トレランの先輩方から練習方法や走り方をこの半年間にたくさん落とし込んでもらった。更に今回はレース展開やコツについてもたくさんアドバイスを頂いた。勿論これまでにも先輩方からたくさんアドバイスは受けてきたのだけれど、おそらく私がそれを消化しきれなかったというか、そのアドバイスを受けて活かせるほどの力が私に備わっていなかったのだろうと思う。半年間、自分なりの試行錯誤で人体実験的に(そこまでストイックにやってはいないけど)面白がりながら、そしてお酒をじゃんじゃん飲みながら鍛えてきたけれど、こうして今年最後のビッグレースで大輪の花を咲かせられたことは純粋に嬉しいとしか言いようがない。これからまた来季にかけて練習を続けていけるのかは甚だ疑問ではあるけれど、ひとつ言えるのは、練習すれば誰でも速くなれるということだ。ただ、練習できるかどうかが分岐点であるように思う。とりあえず来年もしハセツネに出るのならサブ12は確実に狙いたい。でもそれはきっと今回の私にとってのサブ13と同じくらい、ぬるめの目標のようにも思うので、もっと追い込むのならサブ11.5を狙うべきかもしれない。いやいや、私は一体どこに向かっているのか・・・(いきなり全然走らなくなる可能性も大いにあるw)

というわけで、距離が縮んでしまった春と夏のレースの不完全燃焼感は解消されたものの、心の支えにしていたハセツネという大舞台が終わってしまったことで少し切なさの増した秋の夜半。そういえば月がとっても綺麗だったな。

最後に、孤独なレースを支えてくれた仲間達には感謝してもしきれません。寒い中スタートからゴールまで本当にありがとうございました。チームっていいよね。ていうか、うちのチーム最高でしょう?
浅間峠の応援を終えて下山する一行。次は月夜見へ。すべてのCPに応援部隊がいてくれるのは本当に心強い!
photo by Jackieboyslim
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おまけ。
レース48時間前からは恒例のカーボローディング。カーボローディングという名前にかこつけて兎に角食べまくる訳なのだが、今回のメニューはこんな感じだった。よく食べたなぁ。
【木曜昼】(外食)カオマンガイ大盛【木曜夜】(家食)アスパラガスのパスタ大量【金曜朝】忘れたけど多分プロテイン+豆乳?【金曜昼】(外食)バターチキンマサラカレー・ナン食べ放題(2枚)【金曜夜】(外食)神田わいずのたまごラーメン大盛り+小ライス

因みに会場に到着してからもずっとゼリードリンクやらメロンパンやらおにぎりやらゆで卵やらチーズやら、途切れることなくエネルギーを摂り続けていた。胃が丈夫だと体内ストレージにカロリー詰め込めるから、持って行くエネルギー量減らせるし食べるのにかかる時間も節約できるし一石二鳥だな。健康って素晴らしいw
大好きです。

4 件のコメント:

  1. 内容が濃くてかっこいいZe!やったん、読んでいて一緒に走っているみたいな気分だったよ。

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  2. コメントありがとう。ここにきちんとピークを持ってこられた、といってもいいかな。自分にしてはよくやったと思うよ!そろそろ時期が進んできたので雪のシーズン!テレマーカーのトレラン選手って結構いるらしいので冬はスキーに勤しみたいな〜

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  3. うん、読むのは、楽しい。
    特に、やすよさん、心の中、ちゃんと書くから。
    共感するから。

    走れないし、走らないし、無理だけど、瞬間、瞬間を共感できるのは、楽しい。
    若いっていいなって思う。若かった頃にできたとは思わないけどね。
    ありがとう。

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    1. 返信遅くなりました。そう言って頂けると嬉しいです!ありがとうございます。
      私も真剣に書いてるブログは後になって読み返して当時の自分の気持ちに寄り添って感動したりします(笑)。その時の気持ちを鮮明に思い返してなぞれるんですよね。ブログ始めた頃はもっと違う方向性だったんですけど、今のスタイルに落ち着いて、まぁ私らしくなったかなと思っていますw
      どうぞご贔屓に〜

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