2016/05/29

20160528-29_奥久慈トレイル50K(衝撃の63km)(前編)

ひょっとしたらなんとか手が届くかなというイメージはあまりにも朧げで、ボタンの掛け違いがあればいつでもすぐに崩れてふっと消えてしまうようなものだった。だからこそ私にとってひときわ尊く、そして鈍く光り輝く、奥久慈での入賞という大きな憧れ。長いこと照準を合わせてきた正にその時が、刻一刻と消費されて私を通り過ぎてゆくのを、死に物狂いで走る私とは別の私が優雅に愛でていた至福のひととき。手が届くのに気付いた瞬間ぐっと手を伸ばして、握りしめた手を開くとそこにはブロンズのメダルがあった。
<記録>
スタート 5:30
第1関門 7:49:02 →昨年7:49:00(制限時間9:30)
第2関門 11:32:53 →昨年11:59:52(制限時間13:00)
第3関門 14:42:07 →昨年15:51:51(制限時間16:00)
第4関門 15:35:19 →昨年16:41:17(制限時間17:00)
ゴール    11時間31分09秒 →昨年12時間49分33秒
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5月26日(木)
昨年同様都内でキックオフ。完走に向けての作戦、抱負、意気込みなどを共有する大切な時間。(いや、ただの飲み会ですが)
因みに私の月間走行距離は1月60km / 2月45km / 3月116km+チャリ98km / 4月175km+チャリ92km / 5月254km(奥久慈含む)。5ヶ月間のトレランを除く山行日数・スキー日数は合計で22日ほどだった模様。

5月28日(土)

今回Run or Die!!からの奥久慈出走メンバーは昨年熱中症でDNFとなったタケさん、昨年UTMB日本人6位を誇る2013年奥久慈完走経験者カノッチ、奥久慈初エントリーのmorijiさんと私の4名。
1時間を越えるブリーフィングが終わって毎年恒例の前夜祭。ほんとにお祭りみたい!
昨年の反省(前夜祭で飲みすぎ、揚げ物食べすぎ、寝る時間遅すぎ等)を踏まえてアレコレ対策をとったので、21時頃にはお風呂を済ませて宿に戻ることができた。しかし準備の終わったザックに目をやると、そこにはびしょ濡れのザックが鎮座していた。もう4年くらいずっと使い続けているハイドレーションパックから麦茶が漏れていたのだ。調べてみるとどうやら本体とチューブを繋ぐプラスチックパーツの部分からの水漏れであるようだった。手持ちのダクトテープで問題箇所をぐるぐると補修してしばらく様子を見てみたが、とりあえず水漏れは防げそうだ。朝もし水漏れしていたらハンドボトルのほかにもうひとつペットボトルを持参するしかない。なんとも言えない不吉な出来事。余計な心配で緊張は膨らむ。
素泊まりのため夕飯はスーパーで買ったお弁当で済ませる。
カノッチはまさかの清酒ワンカップ。こうして見るとシュールw
5月29日(日)

昨年同様3時過ぎに起床。ハイドレーションからの水漏れはなかった。スタート地点最寄りの駐車場ははじめから諦め、ひとつ離れた駐車場に車を停めてバスでスタート地点へ移動をする。できるだけたくさんのエネルギーを体に蓄えようと、あれこれ食べ続けるけれど、お腹を壊してしまっては意味がない。そのギリギリのラインがどこなのかを探りながら、消化によさそうなものを摂取する。今回は道の駅で購入したお餅(やわらかい状態で売っていた、上の写真手前に写っている四角いパック入りのもの)を3個、大福2個、アサイードリンク少々、ゼリードリンク200kcal1本、くらいだったか。

スタート地点は去年と少しだけ異なる袋田第一駐車場だ。昨年スタート間際までお世話になったトイレからは少し遠かったけれど、仮設トイレが3台と常設トイレが1ヶ所あって行列にならずとても安心。結局今年もトイレを何度か往復したし、最後のトイレはスタート5分前くらいだったけれど、腹痛や下痢の類ではなかったのでとりあえず安心。並び始めたのはスタート30分前くらいだったにも関らず、スタートゲートは遥か遠い。皆一体何時に並び始めたんだよ・・・
今年は前の方から走りだそう!と思ったのにこの位置w
とはいえ、ブリーフィングによると今年は渋滞緩和のためトレイルに入るまでの登り基調のロード区間を2kmほど増やしたというから、後ろからスタートしても特に影響はないかもしれない。そんなことを自分に言い聞かせながら、朝5時半、Runmeterのスタートボタンを押した。今年の奥久慈の旅がどんな旅になるのだろう。期待と不安で脈拍があがる。
仲間と出走前に1枚!
序盤はそれほど飛ばさず、しかしのんびりもせず刻む。昨年同様、タケさんのペースに合わせて私も走り続ける。しかし案の定トレイルに入る前に千切られて、呆気なく一人旅が始まった。トレイルに入りしばらくすると背後から、調子はどうですかという声と共にカノッチが現れた。返事をしようとするけれど、私はまだ調子がいいのか悪いのか判断ができない。カノッチはそれほど速いように見えない動きでするりするりと進んで、あっという間に何人もゴボウ抜きにして視界から消えていった。うわぁ、やっぱりカノッチ速いな。しかし彼と自分を比較しても仕方がない、ペースを人に乱されないようにしよう。そう思い直して再びトレイルと向き合う。
渋滞中に1枚
第1CPは11km地点の持方。昨年は7:49に通過したが、目標としているサブ12を達成するには7:40に到着したいところだ。尚、サブ11.5ならば7:35到着が目安となる(私調べ)。とはいうものの、スタートからCP1までの区間はそこそこキツイし、走力があがっていたとしてもそこまでタイムはのびないだろうという気もしていた。コースの記憶はあちこち抜け落ちていたけれど、それでも矢張り一度は走ったことがあるだけに、展開は頭に入っていた。ここで去年はあの人に会ったなとか、ここのアップダウンは果てしないんだよなとか、ここで足を捻ったなとか。

それにしてもなかなかCP1に辿り着かない。昨年、経過地点の到着時刻をつぶさに記録していたわけではないから、CPに着いてみないとペースが速いのか遅いのかわからない。もどかしい。そうこうしているうちに1時間半、2時間と経過してしまった。若干の落胆を纏い、ようやくCPに到着したのが7:49。なんだよ去年から1分も縮められていないじゃないか。(実はこの時、ここまでの距離が昨年よりのびていたことを知らなかった。というか、おそらくここまでで12km以上はあった。)悔しい。どうしてだ?どうしたらいいんだ?

CPでは1時間に1本計算で持参していたジェルとアミノバイタルの入れ替え作業をする。正直ここは入れ替えをしなくて済むように組んでおいたほうがよかった。水もそれほど減っていなかったので、胸にさしたハンドボトルの水分だけ少し補給して先を急ぐ。ここに来るまでに時間をまったく縮められていないし、この先どんどん縮めないと目標タイムのクリアは絶望的になるだろう。元気な筈の区間で貯金ができなかったことへの焦りは隠せなかった。

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CP1を通過すると男体山の登りが待ち構える。男体山のピークから大円地越までの間だっただろうか、14-15km地点付近の下りを進んでいると視界がぐるんとひっくり返った。右肩から前転して肩と首から着地。たいして飛ばしていたわけでもないのだが、斜度がきつすぎて、倒れた後に体制を立て直すことができず若干谷側へ滑落しかけたのだった。一瞬自分がどこを向いて起き上がったのかよくわからなかったが、それを脳で処理するより先に、脚を電流が突き抜けた。なんだ?なんなんだ??と思ったら両脚のふくらはぎと左脚の内腿が攣っていた。

私はこれまでレースで脚が攣った経験がなかったけれど、今回は転倒という強烈な刺激も手伝って初めて攣ってしまったようだった。塩タブレットをガリガリと喰みながら、足を挫いたりしなくて良かったーと胸をなでおろし先を急ぐ。

17.1km地点のエイドは結局19kmか20kmくらいのところでようやく現れた。思ったところにエイドがない、CPが現れないということでいちいち精神的ダメージを食らう。太陽はますます高く、次第に暑くなってきた。CP2は26.9km地点の竜神大吊橋にあり、そこに着くには延々と階段を上らなくてはならないのだが、階段のすぐ手前には、昨年も御世話になった私設エイドが今年もあった。カットした生トマトとキンキンに冷えた缶ジュースが目に飛び込んでくる。昨年ゼリーとかお豆腐置いててくださいましたよね!?と声を掛けると、ゼリー不人気だったから今年はやめたのよ〜とのお返事。昨年ここで本当に救われましたとだけ伝え、三ツ矢サイダーの250ml缶を飲み干しトマトを頬張ると脚に力が宿った。同志たちは、これ本当に頂いていいんですか?とおもてなしのエイドに驚きの声をあげ、とびきりの笑顔でジュースを飲む。エイドの方々に伝えたいことはたくさんあったけれど、あまりにも力が漲りすぎて1秒でもはやく動き出したい衝動に駆られた。

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階段をあがる。一歩一歩橋が近づいてくる。たまに一歩では我慢できずに一段抜かしで登っていく。ツライ、けどツラクナイ。辛くないんだ。昨年自分がここにたどり着いた時の感覚と比較すると、かなり余力があるのがわかる。目安にしていた目標タイムにも近づいている。CP2でそんなに休憩をしなくてもよさそうだ。写真を撮る余力もあるんだ。
階段を登りきると、昨年見たこの景色が目に飛び込んできた。
1年前、私はきつい26kmを走り抜けようやくここに到着して、もうここでレースを終わりにしてもいいんじゃないか、いや本当にそれでいいのかと葛藤していた。あれは確かに私だったし、いまここにいる私も確かに私なのだ。走馬灯なんてぶっちゃけ見たことないけれど、これまでのことが走馬灯のように頭を流れていく。11:32:53、CP2に到着するとヨッシャと声をあげた。11:35迄にここに到着していれば、サブ12でゴールできる計算だ。今回のレースではもうきっと関門時間に追われることはないだろう。今年は関門時間を追う側にいるんだ。もうきっと大丈夫だ、そう確信した。

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