2017/01/04

20161231-20170103_積雪期北岳(後編)

前編はこちら

9時過ぎに要塞ができてから、暫くの間テントの中で様子を見つつ過ごす。この場所は丁度携帯の電波も入ったので天気予報もブラウズできて都合がよかった。要塞を作る間、いくつものパーティーが通りすぎて行ったが、私とお隣りさんのテントを見ては「え、上ダメですか」「え、停滞ですか」と声を掛けていった。そして数十分後に引き返してきては「ダメですね無理ですね」と報告をしていく。そうでしょう無理でしょう。全員が戻ってくるのを見ては、自分の判断は間違ってなかったなと胸をなでおろす。そうこうしている内にもどんどん風は強くなっていく。これはもう太刀打ちできる風ではない。

しかし11時を過ぎると、少しずつではあるが風が弱まってきた。お隣りのテントの3人組はその時軽く宴会を始めていたらしいが、風の弱まりには気付いたらしく、11時20分頃になるとボーコン沢ノ頭までとりあえず散歩だといって軽装で出発をした。

私はその頃雪を溶かして水を作っていたのでそのまま彼らを見送り暫くテントの中に居座っていた。しかしいくら待っても彼らが戻ってこないという現実と、風が弱まってからかれこれ1時間近く経過し、今もまだ弱まったままだという事実を鑑み、自分もいよいよ北岳の山頂を目指すことにする。とはいえ、いつまたあの突風がやってきて稜線で身動きが取れなくなるかも分からない。シュラフカバーとダウン、行動食とサーモス、エマージェンシーなどを急いでザックに詰め込むと、テントを出た。

ボーコン沢ノ頭に到達するとそこは無風だった。今朝の強風が嘘のようだ。数時間でこんなにも違うものかと驚く。これはいけるかもしれない。そのまま歩みを進めていくと、遠く小さく三人組の姿も見えてきた。
踏み跡はしっかり
段々と斜度が出てくる 
一旦降ってまた登る。ここのロープ×岩と雪のミックスは結構嫌らしかった。慎重にゆく。
ちょっと写真だとわかりづらいけれど、今からこのロープ伝いに降るところ(八本歯より手前)
荷物が大きかったら、結構大変そうだなぁ
山頂まであとすこし!と思うものの、なかなか着かない・・・
際どいトラバースもいくつか越えたが、どこも踏み跡があって踏み固められていたので安心感がある。流石にノートレースだったらきっと心が折れてしまうだろうなぁ。。。
吊尾根分岐点に到達。ここから左に行くと北岳山荘方面(間ノ岳方面)、右に登ると北岳山頂
吊尾根分岐点に到着して尾根に乗ると、途端に風が吹き始めた。下があれほど無風でもこれだけの風があるのか!ならばボーコン沢ノ頭であんなに強風が吹き荒れていた早朝にここに突撃していたら一体どれほどの風だったのか。想像しただけで足がすくむ。

ここから一気に壁のようなルートが現れ、ピッケルのピックを打ち込みながら攀じ登ること暫し。そこを抜けてすこしだけ尾根を進むと、嗚呼、遂に現れた北岳のピーク!
三人組に追いついたので写真を撮ってもらう。登頂したぞー!
なんと美しき頂か。しかし風はそれなりに強く、じっとしているとすぐに体温を奪われる。急いで撮影を済ませ、即撤収。
がっつり一眼レフな方が写真を撮る様子を私が撮るw
登ってきた夏道を後ろ向きに降りていく二人を見つつ、
もう一人が左の尾根の方が安全そうだといって歩き出す。実際尾根上の方が安全だった・・・
吊尾根分岐に戻ったところで、初日にバスが一緒だった小林くんとすれ違う。私と同じルートを行こうとしているだけあって、幕営装備を全て担いだスタイルでこの尾根に上がってきた。彼は初日に池山御池小屋までしか登らなかったらしいが、今日は午前中の強風を途中待機で見遣って、このタイミングを狙ってアタックしてきたとのことだった。

かたやアタックザックの私。この人行くのかな、行ける人がいるのに私はいかないのかな、、、色々な思いを抱きながら彼を山頂へと見送る。全て担いでここに来ている彼に対して羨ましいと思う気持ちはとても強かった。

いずれにしてもこれから私がテントを畳んで北岳山荘に向かうことはできないので、三人組と共にテントに引き返す。
楽しき三人組
この三人組、何が面白いかって・・・
ベストショットが撮れる!ということで撮影会が始まりまして 
これが延々続くわけですよw
そして撮っていただいたのがこんな写真 photo by Hasegawa-san
ありがとうございます。photo by Hasegawa-san
テントに戻り、こちらの夕飯は相変わらずのアルファ米とフリーズドライのおかずだというのに、三人組はどうやらジンギスカンを焼き散らかしていたらしい。テントから顔を出すと肉テロが物凄いため私はそっとテントを閉じた。けしからん、実にけしからん!

今回はお正月ということで日本酒を持ってきていた私は、ペットボトルに入れ替えた300mlだけの上善如水をチビチビやりながらアタリメを齧っていた。これはこれで美味しいのだ。しかしなかなかどうして質素な夕飯にもかかわらずすぐにお腹がいっぱいになってしまってそこから先の嗜好品が進まない。運動量は確かに少ないかもしれないが、標高の高いところにいるだけでカロリーの消費は激しい筈だ。だとしたらこれはなんだ、いつもの高度障害か。

午後の山頂アタックでは幸いにして高度障害はそれほど出なかったため割と良いペースで登れたのだが、そのことがそもそも奇跡みたいなもので、私は2700-2800mを越えると必ずと言っていいほど高度障害が出る。高度障害が出るとペースは極端に遅くなり、脈拍は上がり、場合によっては下痢をしたり気分が悪くなったり頭痛がしたりする。幸い今回は極端な症状はでていないが、この食欲減退はおそらく高度障害なのだろう。そして標高が高いとお酒のまわりも早くなると言うが、少量の日本酒は弱った私の頭と体を静かに力強く掻き回していった。掻き回されながらも必死に地図を見て、間ノ岳ピストンをした場合のCTを計算したりなどするも、いやこれ午前中だけで戻ってこられないし、午後から風強くなるとか天候悪化するとか言われたらいけないでしょとか考えているうちに300mlであっという間に限界を迎え、そのまま撃沈。もう明日は降りるくらいしかやることはないのか。おやすみなさい・・・

-----
2017/1/2 (Mon)
10:55 幕営地
↓ - 0:35
11:30 城峰P
↓ - 0:35
12:05 池山御池小屋

夜中は暫く風が強くて眠れず、25時半くらいになって風が止むと今度は一気に気温が上がって暑くて目が覚めた。まさかの0度(暑いわけだ)。暑すぎてダウンを脱ぎ捨て、シュラフから半身出た状態でようやく深い睡眠に入り、そのまま朝を迎える。日が昇ってきて眩しいなと思いながら起床するとはなんと贅沢な。まぁお正月だからいいか。何日目に見た夢だったかは忘れてしまったが、赤い雨が降ってきて何コレって言っていると、遠くに見える坂道を死んだ人達が頭を下にして雪崩れてくるのが見える気持ちの悪い夢があった。その迫り来る死んだ人達は全員が自殺をした人達で、その波に飲まれるとこちらも死んでしまうため、恐ろしくて死にたくなくて、近くにいた仲の良い友人と手を取り合って死にたくない!と言い合っていた。別にそんな怖い思いをした山行でもなかったし、何が引き金となってそんな怖い夢を見たのか皆目見当がつかないけれども。

三人組がボーコン沢ノ頭へ最後の散歩に出掛け、そして戻ってくるのを隣から見守る。自分もテントを撤収してから登りに行ってみることにした。きっとそうそう頻繁に来られるところでもないだろうから。

結局例の小林くんは北岳アタックの後で強風に恐れ慄いて引き返してきたらしい。この強風であの稜線に居たら、進退極まっていただろう。彼の判断も正しかった。私が出会ったすべての人が無事で本当によかった。
バットレスを目に焼き付ける
二日間お世話になった幕営地にお礼をして、降ること一時間ほど。池山御池小屋はまるで秋の里山の体。三人組と再び合流し、穏やかな日差しに包まれながら一杯。
最終日のお酒は黄アーリーのお湯割り。
そして毎日すこしずつ消費してきたbacon smoked nutsとhoney loasted nuts、そして魚肉ソーセージをツマミに。
美味い!合う!! 
シュラフ干し、靴干し。
高度を下げたためかすこしずつ食欲が復活してきた。けれどもアルコールにやられて14時半過ぎに一旦寝落ち(早すぎるw)。シュラフにも入らず、ダウンも着ないでシュラフを掛けた状態で眠っていると、寝ているところすみません、こんにちは、と私のテントに声を掛けてくる人がいた。顔を出すと三人組ではないし、この人いったい誰だろう・・・

ほうとうあるんですけど食べてくれませんかと宣うこのお方、手には360g入りの茹で麺のほうとうがある。汁は大きめのジェットボイルに入っていて、仲には魚河岸揚げみたいな丸いがんもどきのようなものが浮かんでいる。や、美味しそうだし食べたいし。私が予定していた今夜の夕飯はカレーメシだけど、そんなの持って帰るわ。食べます、いただきます。食べきれなかったら明日の朝食べますっ!!と即答して、頂いたのがこちら。
汁は私のジェットボイルに移し替えてもらった
やーほうとう凄い量だし。無理じゃない?と思うも束の間、あまりの美味しさに二度に分けて完食。汁がすこし残ったので、上善如水を入れてきたペットボトルに移し替えて翌朝の朝食用とした。ほうとうは埼玉県のものだったけれど、汁は金沢名物のなんとか、とのこと。ニンニクが入っていてすごく美味しかったのだが、今調べたところによるとこれがおそらくとり野菜みそだと思われる。 前から食べてみたかったものなのだが、まさか山の中で見知らぬ人から配給を受けることになるとは。。。かなり美味しかったし、今度は自分でも使ってみたいなと思った。

-----
2017/1/3 (Tue)
7:10 池山御池小屋
↓ - 1:40
8:50 あるき沢橋BS
↓ - 3:25
12:15 開運隧道ゲート

ほうとうをいただく直前くらいに三人組から「明日は7時出発くらいで良いですか?」と声をかけられていたので、酔って眠いながらもきちんとアラームを掛けて対応。。。
朝焼けが美しい
朝も早よから撮影をする人々w
ここからは特にこれといって難しいところも何もないのでただただ林道を目指して降りてゆく。
林道に降りて振り返ると、遠くの山々には盛大に雲がかかっていた。このあと林道でも降雪があった。
今日は上の方きっと相当荒れているだろう・・・
Mさんザックでかいよね、Mさんは体大きいからわからないけど、俺が入りそうだよ!
と言ってHさんが並ぶとこんな感じ。ザックでかいw
ワイワイ喋りながら歩くこと3時間以上、ようやくゲートにたどり着いてこの旅は終わった。
このあと温泉に浸かって解散。私はMさんの車で甲府へ。
-----

行こうとしていた農鳥岳付近の登りは結構険しく、落ちたら止まらないと聞いていたので、もしも本当に行っていたとしたらかなり痺れる山行になっていたと思う。今回は強風という理由で三山縦走ができなかったのだと大腕振って言えるけれど、強風という理由がなかった場合はきっと駒を先に進めない理由はほとんど無くなっていて、先に進まざるを得なかっただろう。

そのまだ見ぬ雪の壁に立ち向かえるのかどうかについては不安があったので、強風という撤退理由があって良かったなと思っている自分がいるのも否定はできない。季節が進んで入山する人が減り、トレースがなくなれば、ここはもう私にとっては難しい場所になるだろうし、また暫くは挑むことさえ許されない厳しいものになると思うが、とても抗うことなんてできないと思えるほどの強風を体感し、白くうねりながら空を割く生き物のような美しい尾根を見ることができ、次にまた挑戦したいと思える対象ができたということが、今回の大きな収穫だったようにも思う。嗚呼、これだから雪山は楽しい。

またいつか会いに来よう。

4 件のコメント:

  1. おっと、先を越されました。。
    なかなかね、行き先を直前まで決められないのは一緒ですが、なかなかガッツリには慎重になりすぎて、決行できないのです。
    最悪を想定するのでね。それはやすよさんのように速く歩けない笑

    でもなあ、いきたいなあ。


    そういえば、年末に小仏峠でやすよさんに似た人とすれ違ったけど、まあ少し太めだったので、違う人でしたが、それでまた思い出していました笑

    今年も、元気でチャレンジして、そしてブログで興奮させてくださいね。

    返信削除
    返信
    1. このピストンはそこまで危険ではないと思います。もちろん、三山縦走は危険ですね、、、エスケープがないですから。完全にいけると踏んだときでなければ突っ込めない気がします。虎視眈々とそのタイミングを何年も狙うしかないのかもしれません。。

      ブログはなかなか書けていませんが、やめるつもりはないのでまた遊びにきてください!

      削除
  2. ヤマネコ号2017年1月12日 17:21

    どんな山行だったのか、気になっていたので
    読ませていただいて、写真も拝見できて、
    とても嬉しいです〜!!

    果敢なチャレンジなのに、楽しそうな山行。
    幸先の良い1年のスタートですね!!

    返信削除
    返信
    1. 返信していたつもりがしていなかったようで失礼しました!読んでいただきありがとうございます!

      三山縦走はできませんでしたが、こうしてこれからまたしばらく温めて、次のチャレンジを待てるというのも幸せな時間です。元旦に北岳のピークが踏めたのは本当に嬉しかった!元旦ていうところが特に(笑)。

      削除