2020/09/22

20200919-22_尾白川水系 黄蓮谷右俣(後編)


Day3--2020/09/21 (Mon)  曇り
北海道某所からやってきたU氏は、こんなに歩いてきてもまだ街が見えるなんて流石本州だ!としきりに言っていた。言われてみると確かに。本州の人間からしてみれば、いくら歩いても街が見えるのは興覚めで、できればできるだけ街の見えないところまで行きたいと思うのだが、これは無いものねだりみたいなものか。夜は結構冷えて顔が冷たかったので、頭まですっぽりとシュラフカバーに潜って眠った。風も少しあったので、潜って眠っていてもカバーは結露しなかった。

ところで、K氏は2日目の沢のトラバースで滑落しそうになった時に実は足を捻っており、鎮痛剤を飲みながら歩いていた。私は私で、前をゆくU氏の足場が崩れ、割と大きな落石を左足首にくらっていた。この日の夜、眠っている間に足を動かさずにいたら、朝はびっこをひきながらしか歩けず「いやこれはやばいかもしれない、登れるのか?」と焦った。鎮痛剤を飲んで動き始めたらまぁ問題なく動けたので良かったけれど、後でK氏にこの話をしたら「自分も実は朝足首動かなさすぎてびっこひいてました・・・」とのことだった。3人中2人が足のトラブルとはこれ如何に。でも、怪我の直後といい翌朝といい、沢で足が冷やされていると大分痛みは和らぐような気がする。(因みに足はもう全然平気です。案外骨って折れないものだね。)
上段に集まって朝食、とっくに夜は明けている
ピーマンと玉ねぎが残っていて、カルパスと炒めてトマトペーストを入れたらナポリタンの具みたいなものができた。カレーメシのトッピングとして、チーズと一緒に乗せまくる(カレーメシもはや見えず)。この後さらにハヤシメシも食らう。結局1度に2食
例の5人パーティーが出発準備を始めるのを上から眺めつつ「彼等準備始めてからもうだいぶ経つけど全然出発しないねー」とかなんとか言っていた我々だが、いやお前ら出発準備もしてないのに何を宣うのか・・・

暫くすると彼等が登ってきてこう言った。「今日は停滞ですか・・・?」いや?いやいや行きますよ!全然天気悪くないし停滞なわけないじゃない?でもまぁ普通に考えて9時半過ぎてダラダラしてたら停滞かなって思うよな。寒いので、沢に日が差してからじゃないと嫌だよねぇって話していたらなんだかんだ遅くなってしまっただけなのだけれど。
すぐ先の滝に取りついた彼等だったが、何度見ても一向に進んでいない。その滝そんなに難しそうに見えないのになんでそんなに手古摺っているのだろう?と思って観察しているとロープを出し始めた。えええ!?そんなに?と思いながら見守ること暫し、突破してそのまた次の滝からも全く進む様子がない。昨日彼等に聞いたところによると、彼等と我々とで進んだ距離と時間にほとんど差がなく、おそらく似たようなレベルのようだったので、きっと我々もあの滝をそんなにスルスル登れないんだろうなぁと思った。我々の出発は10時・・・実際自分らもなかなかこの滝を突破できず、一本目を終えるのに20分くらいかかった。先が思いやられる。
ぬめっていて中々すんなりいけない
この日は「嫌ってほど滝が続く」との前情報だった。うん、いや、昨日も十分嫌ってほどの滝だったけど、もっとなんですかね?
私がトップで登っている(たまにはね)
午前中はかろうじて日が差した
この日、本当は一日中晴れ予報で、キラキラ輝く滝を全力で楽しむ気満々だったのだが、結構あっという間にガスってしまい、あまり景色らしい景色は楽しめなかったのが残念。ぐいぐい高度を上げていく系の立った滝の連続だったから、後ろを振り返るとこれまで歩いてきた沢とその向こうに北杜市!みたいな絶景が楽しめる筈だったと思うのだけれども。
ロープの時は私は基本的にトップは行かない(行けないw)。
ロープ出してるけどこれどこだろう?
午後になりガスが濃くなってくる。稜線が見えないどころか、そもそもこれから取り付く滝の終わりが見えないくらいの視界。どのルートをとればいいのかよくわからないまま取り付く、みたいなことを繰り返していく。途中、2400mの幕営適地も通過したけれど、何故か誰も写真を撮っていなかったので写真がない。4テン3張くらいできそうな広さだった。
なんだかうつむいてしょんぼりしているように見える私w辛そう(そこまででもないけど)
12時半頃、左の草付きの方を登るか右の一枚岩のようなところと岩場の境目のクラックのようなところを登るかで選択を迫られる場所にやってきた。U氏は左の草付きへ這いあがったが、後ろに控える私とK氏は「右のこの岩の上、結構フリクション効くんじゃないのか?」と言って右の岩場を進むことにした。このガスなので上部の様子はわからないまま取り付いてしまったが、少し進むとフリクションが効かなくなりだした。落ちたらまぁ命はなさそうな感じ。バイルを溝に引っ掛けたら結構効くんじゃないかな?とK氏に言われ、斜面の途中でバイルを取り出し打ち込んでみるも、岩がボロボロと崩れるばかりで一向にうまくひっかからない。信用しきれないフリクションに命を預けながら騙し騙し進んでいると、私の目の前にハーケンが現れ、スリングがついていた。

「K君!ここにハーケンがある」
後ろにいるK氏にそう伝えると、ハーケンについたスリングをとりあえず握った。手がかりが出てきて安心したのも束の間、いやハーケンあるってことはそういうところってことよな、と理解し冷や汗が出てくる。スリングを掴んで体を引き上げ、今度はそのハーケンに足をかけて更に登ると上に再びハーケンが出てきた。まぁここ登るなら確保しますよね。した方がいいですよね・・・

ガスの奥に、この岩場の終わりがようやく見えたと思ったら結構遠く、しかも次のハーケンがどこに打たれているのかはよく見えなかった。いやぁ、これ今あっちとこっちで全員登っちゃってるし、U氏が詰んでいたら結構やばいね、とかなんとか言いながら、岩場の向こうのU氏に向かってK氏が声を掛ける。幸いU氏は草付き側を突破し上に回り込めたので、しばらくしてロープが垂れてきた。命拾いした。
ゴボウで大丈夫です!とK氏が言ったのでゴボウで登ることに。個人的にはゴボウじゃなくて普通に確保してほしい!!と思ったりもしたけれどとりあえず大丈夫だった。今回アッセンダーは持たなくて大丈夫と言われて持参しなかったので、U氏のタイブロックを借りて登る。
13時半くらいになってようやくこの岩場を突破。稜線はまだか(まだだ)。
とっくに水の涸れた谷をぐいぐい登り続けること2時間半。荷物は初日と比べて軽くなっている筈なのに全然軽くなっていっている気がしないのは、自らの疲労ゆえだろうなどと言い合いながら、登りの強いU氏の背中をK氏と私が追ってゆく。私はといえば天候のせいもあって2500m足らずのところからとっくに高度障害が出始めていて息も絶え絶えであった。できれば山頂直下に詰め上がりたいからということで、分岐らしい分岐は可能な限り右へ右へとルートを取った。なにやら左の方から声がしていたので登山客かなぁと思っていたのだが、後で聞いたところによると例の5人パーティーが左の方に詰め上がろうとしてハイマツ漕ぎを強いられていたらしかった。
これまで登ってきた沢の行程を想い起こしながら荒い呼吸でフィナーレに向かうこの感じ、嫌いじゃないんですよみたいなことをK氏が言っていて、私は静かに、しかし猛烈に共感した。
登山道に出るところでU氏が先頭をかわってくれた
ようやく登山道!といっても鋸岳側だし時間も時間だし誰もいない(15時半)。
お疲れさまでしたーーー!
わざわざ北海道からきているU氏の初めての甲斐駒ヶ岳登頂ということで、U氏に先に山頂を踏んでもらう。私はといえばもう山頂は5回も6回も来ているので・・・。
最後の急登でちょいちょいお日様が見え隠れしていたので、ひょっとして山頂でワンチャンあるんじゃ・・・?と思っていたが真っ白で何も見えず残念。。。と思いきや、雲がちょっと薄くない・・・?薄くなってきてない・・・・?
あ、稜線見える・・・・・・見える!
まさかここまで晴れると思わなかったのだけれど、山頂に来るとガスが切れたり、夕方になったらガスが消えたり、よくあることと言えばまぁよくあることだ。歩みが遅くて登頂が遅くなってしまったのも予定外とかじゃなくて予定調和なんですよ。ええ。
山頂には結局誰もやって来ず、3人占めだった。ハーネスやら何やらの装備解除とカロリー補給と撮影会で1時間も山頂に長居してしまい、16時半を過ぎてようやく黒戸尾根方面へ向かう。元々は尾白川本谷を下降する予定だったが、2日目の終わりくらいにはもうほぼその計画は諦めて黒戸尾根下山になるだろうねと話していた。
七条小屋の時点で17時半くらいだったが、テン場も小屋も予約制のため泊まることはできない。水を買って途中でフォーキャストビバークを決め込むか、それとも水を追加せずにこのまま下まで下山して尾白川のキャンプ場で泊まるかについて話し合う。幸い全員体力的に問題がなかったので、この日のうちに一気に下山することにした。そこそこ長いしナイトハイクになるし疲れもそれなりに溜まっているだろうからということで、これ以上怪我をしないように気を付けながら進む。

5人組に追いつくと、水がたくさんあるからよかったら差し上げますとのことだったので遠慮なく3Lほど頂き、幕も張らずにビバークすることにした。下まで行くぞーと気合を入れて七条小屋を出発したのだが、まぁそこまで急ぐわけでもない。夕飯はU氏が海外から買ってきたフリーズドライのカトマンズカレーなるものと、最後まで運び続けた卵2個をブチ込んだ麻婆春雨と鴨のスモーク。お酒はもう私の100mlか150mlほどしかないウィスキーだけしかなくなっていたが、3人で少しずつ分け合って飲んですぐに眠った。明日はU氏の飛行機の関係で10時には車に戻らなくてはならないので朝はそれなりに早い。

幕を張らずに横になると、木々の間から星がこぼれた。

Day4--2020/09/22 (Tue)  晴れ
朝は軽めにお味噌汁だけ飲んで出発し、樹林帯を抜けて9時半前くらいに下山。計画通り。この後天下一品を食べて甲府で13時半くらいに解散し、4日間の旅が終わった。

K氏がキラキラした動画にまとめてくれたので見てね。↓(序盤の私のへっぴり腰が酷いけど終始こんなだったわけではないです・・・w)

長く山の中に入っていると段々日常が逆転してくるよねーという話をしていたけれど今回もちょっとそれに近いものがあった。山が日常みたいになりかけた時に稜線に出て、夢みたいな時間は七条小屋のあたりでしゃぼんのようにぱちんと消えた。下山してからも暫くその夢のような時間の余韻は続いていて、写真を見たり動画を見たりすると、確かにあれは現実だったんだと思いはするものの、どこか微妙に信じられず、ふわふわしたままもう何日も過ぎてしまった。

こんなひりひりするうようなことばっかりやってると身が持たないけど、たまにやるとやっぱりいいよね!とK氏が言っていたのが忘れられない。いやほんとそれ。でも、身が持たないなんて言っても、締めるところ締めてそれなりに確保もしたし、これまでに私が経験してきた泣きそうなくらい危ない山行と比べたら安全マージンは取っている方だったと思う。矢張り確保大事。とはいえ、ある程度の勇気や思い切りも必要だし、それがないようだと全然進めなくなってしまうのだけれど、本当に失敗が許されないところでは確実さを優先すべきだし、その絶妙なバランスを探りつつ個人としてもパーティーとしても進化しながら沢を詰め上がっていくのは楽しくてとても幸せだ。どんどん色々なことがぴたっと嵌っていく。だからこそ、詰め上がりが美しく輝かしく喜びに満ち溢れたものになるのだろう。

初めて組んだ3人で、私が一番実力に欠けていたとは思うが、それでも怖い目にたくさん遭いながらなんとかこれまで生き延びてきた者として、それなりに機能できたかなぁと思っている。バランスの良い楽しいパーティーだったな。来年もまた是非このメンバーでどこかの沢へ入りたい、そしてその頃までにはもう少し登攀力を上げておきたい。

2人の仲間に最大の感謝を。

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