宿から会場までは徒歩で20分ちょっとだったが、有難いことに宿の人が車で送ってくれた。到着して間もなく激しいスコールに見舞われ、会場は一瞬にしてどろぐちゃになる。インドネシアのスコールの激しさは日本のゲリラ豪雨とほぼ同じ感じで凄まじい。レース中もこれがきっとやってくるんだろうなぁ、ということで装備は細かくジップロック等にパッキングして雨対策は万全に。
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軒下で雨宿り |
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会場では控室のようなものが用意されている感じでもなく、Ole Athltcの物販ブースにお世話になることに。サポート選手でもスタッフでもないのに彼らからプレゼントして頂いたTシャツを着てブース内で過ごすw(場所使わせて頂けて大分助かった) |
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レース会場の敷地付近にご飯を食べられる場所があったので直前の腹ごしらえ。 胃腸を気にせず現地に馴染み続けるわたしたち |
メニューの垂れ幕を見て、どんな料理か特に調べもせず、かといってナシゴレンのような分かりきったメニューにするのも面白くないかなと思った私が、あてずっぽうに頼んだ料理がこれ。骨付きチキンと白飯のセットで、チキンはどう見ても揚げてあり、添えてあるソースはまたしてもピリ辛サンバルソース。およそレース2時間前とかに食べるものではないとは思うが、気にせずいただく。ここでも周囲にはハエがぶんぶん飛んでいて鬱陶しい。
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胃よ、頑張って消化せよ |
印刷してきたタイム表を早速なくしてしまって無い無いと大騒ぎしたものの結局見つかって一安心。タイム表といっても100kmカテゴリは今回初開催なので過去のデータが無く細かい予想タイムは作れない。とりあえず定められた関門をベースにして28時間・30時間・制限時間の34時間の3パターンを参考資料程度にメモしただけのもの。
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Foodと手書きしてあるポイントは麺や米などがあるエイド。それ以外はスナックやフルーツなどの食べ物はあるが麺などのご飯ものがないという事前情報だった。 結果的にはあちこちのエイドでカップ麺程度は用意されていて、食べ物には困らなかった。 |
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いよいよスタート! |
ひとりだったら初海外レースだなんて多分いつも以上に緊張していたと思うが、友人が一緒なこともあり少しだけ気が紛れた。長旅だ、突っ込み過ぎず、それでいて温存し過ぎず行こう。100kmは長いようで短く、短いようで長い。自分にしかわからないメンタルとフィジカルの駆け引きがある。
沿道の熱い視線と力強い声援に見送られゲートをくぐるとレースが始まった。初開催の100kmにチャレンジしようとする選手達への、過剰なまでの尊敬の眼差しと熱量を肌で感じる。スタートしてひとつめのピークはバトゥール山(Mt. Batur)、火山であり足元は黒い砂礫が続く。降りは良いが登りが砂だと少しずつずり落ちて疲れる。しかし天気も悪く無く、景色も楽しめる。植生もいちいち新鮮だし、前後に日本人など一人もいない。目に映るすべてのことが興味深くて興奮が続き、ニヤニヤが止まらず終始キョロキョロする。興奮しすぎて疲弊してしまいそうだ。
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レース序盤でも渋滞はなくスムーズで、ストレスとは無縁 |
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この後目指す遠くの山の頂が見える |
国は違えど山を神聖なものとして扱うのは人間としての本能なのか何なのか。火山と湖が雲の衣を纏って神々しく遠くに鎮座している。まるで不思議な物語の中に居るようだ。もう既に泣きそうである。
近くのスタッフに景色が良くて感動していると思わず伝えたけれど、英語がわからなかったようでスルーされたw現地の人全員が、英語を理解してくれる訳ではない。
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ムーミン谷のような景観に圧倒される |
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歩みを進めると今度はトレイル脇に複数の猿が現れる。逃げもしない。 山を守っているかのようでもある。 |
バトゥール山付近でスタッフからラバーバンドを貰うと、そこにはStay Strongという文字が書かれていた。いくつかのポイントの通過の証として、この後色違いのラバーバンドを合計4つ貰うことになる。
【WS1 / 8km付近】5/9 17:50頃
富士山の砂走のようなところをザーッ、ザーッと砂もろとも気持ちよく滑り落ちてきたところにひとつめのエイド。砂走の経験が活きる。
下の写真に一緒に写っているのは
ボルネオ島に住むマレーシアのAdelinah Lintanga選手(どうやら普通にスポーツ選手みたい)。こんな序盤でも近くに居たとはこの時気付いていなかったけれど、この写真を見て初めて知った。降りやロードは彼女の方が速くて、登りは私の方が速く、抜きつ抜かれつしながらずっと一緒だったので結構色々喋って楽しかった。 |
公式のカメラマンが何十人と配置されており、道中大量の写真を撮って貰えた。 無料でDLできる写真が、何十枚もあってとても有難い。
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カメラを向けたらポーズを取ってくれたお茶目な選手w |
エイドには何があるんだろう?とワクワクドキドキ。小ぶりなサイズのサラダ煎餅のようなもの、ゆで卵、皮付きの小ぶりなジャガイモ、スイカ、バナナ、ドライデーツ、チョコレート味のプロテインバーみたいなもの等があり、水分は普通の水と豆乳とスポドリのようなもの(普通のスポドリ味とココナッツ味の2種類が基本セット)。個人的にはココナッツ味のスポドリが滅茶苦茶気に入ったので、500ml×2のボトルのうち1本はずっとこれを入れていた。スイカは黒い種がほとんど無く白い小さな種しかないのでそのままガブガブ食べられて良い。ジャガイモも、私は普段から皮ごと食べてしまう人なのでそのまま食べていた。走っている最中にジャガイモ食べるなんて初めてだったけれど、結構美味しかった。
ここから暫く平坦なセクションが続く。コース分析をしている頃から「まぁこの区間は走らされる感じだよね」と思っていたのだが、次第に暗くなってくるそのコースは足元に拳大ほどの溶岩がゴロゴロ転がっていてすごく走りづらい。下手に走ると岩に足を取られて捻りそうだったので早足で慎重に進む。ところによってはヘッドライトを最大光量まで明るくして照らす。タイムを稼ぐ区間だと思っていたけれどそうでもないかもしれない。月は大きく満ちて、遠くに控える3000m峰Mt. Agungを暗闇の中に浮かび上がらせていた。ひょっとして満月が神聖なもので、レースの日程を満月とぶつけたのかも!?等とひとり地味に盛り上がっていたが、別にそもそも満月ではなかった(この翌日か翌々日くらいが満月だった)。
【WS2 / 16.4km Tanjakan Cinta / CP1】5/9 19:03
写真を見てもここのエイドの記憶があまり無く、WS3の記憶と混同している。。。
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標高グラフの上のところに赤い人の形が描かれているのが現在地 |
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中央付近に写っているのは謎の蛍光色のエナジードリンク。ここでは飲まなかった。
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【WS3 / 27km Gunung Abang / CP2】5/9 20:58お待ちかねのフードステーション!鶏肉の入った手作りの汁物で、ピリ辛ちょっとグリーンカレーみたいな感じの汁にビーフンのようなフォーのような麺が入ったもの。ゆで卵も皮を剝いて入れてくれる。美味しい!辛さで胃がやられるかな?いう心配も少しあったけれど、美味しくてあっという間に完食してしまった。既に胃が受け付けなくなっているのか、辛くて食べられないのかは判らなかったが、食べ切れずに残している選手も多かった。いやーこの調子でこんな美味しい物が出続けるなんて最高じゃん!食いつくすぞー!俄然やる気を出す。
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必携装備のカトラリーも器も一度も使わなかったw 2杯食べたかったがこんな序盤からエイドに滞在しすぎるのもどうかと思って先を急ぐ |
民家のある割と平坦な道を進んでいると、前方に筋肉ムチムチのゴツいアジア人がいた。沿道の木にストックをのばして枝を手繰り寄せたと思ったらなにやら緑色の実をいくつかもぎ取っている。何か食べられる実なのかと尋ねると、私にひとつ実を手渡しながら皮ごと齧りついてニヤリと笑みを浮かべた。ミカン風なその実を齧るとまるで渋柿のようで、ひとかけらも飲み込めなかった。なんだったんだあれは。
【WS4 / 41.7km Puregai / CP3】5/9 23:14
いよいよ始まる3000m峰の登りを直後に控えたエイドに到着した。事前に友人から「Pop Meってカップ麺が結構普通に美味しいから、あったら是非食べて!」と言われていたのでここで食べていくことにした。これも辛くて美味しく、あとソーセージ状のものも気に入った。魚肉じゃなくて多分鶏とか豚なのだろうけれど、肌理が細かくて魚肉ソーセージみたいな食感。ここで1本食べたが、ここから先登りだし暫く食べ物無いから持って行け!とスタッフの人に勧められて更に2本持って行った。ちょっと重いのだけれど、携行性の良い塩気のある行動食は重宝するからね。
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最初の関門。25時までは余裕あり。 |
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どれもこれも美味しいw |
そして始まる2000m upの登り。私が一番警戒しているセクションだった。なにせ私は高度障害が出易いタイプで、低気圧が来ていたりすると益々状況は悪くなり2600mくらいからペースがガタ落ちする。5/4-5で南アルプスの仙丈ヶ岳(3033m)へスキーで登ったが、この標高はこの後登るアグン山(Mt. Agung, 3014m)とほぼ標高が同じだ。一度登ったところで高度順応ができるとも思っていなかったが、そこそこ重い荷物を背負ってゼーゼー言いながら仙丈に行っておいたのは良いトレーニングになった気がする。普段の登山だと、荷物の重さに関係なく大体300m登るのに1時間くらいかかるイメージがあるのだが、今回アグン山では大体1時間に500mくらい登れたしそんなに息切れしなかった。仙丈では物凄く息切れして全然進めなかったので、荷物の重さが違うとはいえ状況は大分良い気がした。
とはいえひたすら無心で登れば良い凡庸な登りというタイプの斜面では無く、トレイルは狭く鋭く切れ落ちていたり、かと思えば滑りやすく広い岩場であったり、風が吹きつけて過酷であったり、伊達に3000m級の山岳ではない。記憶が定かでないが、ここの登りぐらいから鼻血が出始めたのだったような気がする。脚も呼吸も余裕があるのに鼻血が出て止まらない。
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前の人の脚のゴツさよw |
AM2:45、ようやく長い登りが終わった。何なら時間をかけて明け方山頂に到達した方が景色良かったんじゃないのか?と思わずにはいられないような開けた山頂だ。とりあえず夜景だけでも見られて良かったけれど。
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昼間ならさぞ絶景だろうな |
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アグン山は火山であり、火口縁に登山道は無いため山頂真上までは行かず 3000m峰だけあって結構寒い。風はそれほど強くなかった |
山頂担当のスタッフからラバーバンドを貰うとすぐ降りようとするが、斜度がえぐすぎる。下手したら登りと同じくらい時間がかかるのではないだろうかと思えるほどのテクニカルなサーフェスだ。登ってきたコースをそのまま引き返すかたちで暫く降り、途中から分岐してWS5(CP4)に向かうのだが、途中で女性特有の月のものがやってきたのを察した。よりによって今かよ!と悪態をつくでもなく、逆にタイミング悪すぎてちょっと笑える。予定ではレース前に終わってくれる筈だったのだが、緊張ゆえなのか何故か始まりもせず、この強烈なタイミングでやってきた。その後もう暫く降ると友人とすれ違い「アレが始まってしまった・・・」という会話をしつつ別れてから暗闇でパンツ脱いであれこれ。周期乱れすぎやろがい!
【WS5 / 57.5km Cegi Village / CP4】5/10 5:30
アグン山の降りには大そう手古摺った。何度も尻もちをつきながらズルズルと降ってようやくドロップバッグポイントでもあるWS5(CP4)に到着。アグン山は綺麗な笠型の峰で、その降りともなればうっかり飛ばし過ぎて前腿が死ぬなぁなどと心配していたのだが実際はそんなことにはならず、逆にスリッピーでブレーキをかけ続けたことで腿にダメージを受けた。Adelinah Lintanga選手との抜きつ抜かれつが既に始まっていたが、ここのエイドではずっと一緒に過ごした。関門時刻は8:00だったが夜明け直前の5:30に到着。一安心だ。
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ここで30分くらい滞在した |
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鶏団子入り雑炊を頂く。これ以外にも何かご飯を食べた気がする |
ドロップバッグを受け取り、時計やスマホの充電をしたり靴下を交換したり、擦れ防止のProtect J1の塗り直しをしたりしつつ過ごした。ここでも盛大に鼻血を出したような気がする。Adelinah選手は僅かに先に到着していたので先に準備を終えて出発していったけれど、どうせまた登りであなたに捕まるから先に出るね、みたいなことを言い残していった。浅黒い肌にバチバチに仕上がった筋肉質な脚、明らかに強いであろう彼女が私に対して何らかのリスペクトをもって会話してくれるということがとても嬉しかった。彼女はシャツもパンツも一気に着替えているようだった。彼女が着替えるのを見ながら、そういえば私は今回着替えをドロップバッグに全く入れなかったなぁ、と遅ればせながら思い出した。汗をかきすぎて股ずれし始めていたので、パンツの替えがあったら良かったかもしれない(と思っても後の祭り)。
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