星が、この手の平に髪の毛に、ふわっと舞い降りてきそうな空を見上げながら
1人静かに山道をザクッザクッと歩くのは本当に気持ちがいい。
真っ暗な山道で星を眺め、静寂の中を切り裂く甲高い耳鳴りを頭と心で食んでいると、
自ずと物凄く物凄く遠い記憶のようなものが蘇って、
その記憶に潜る間も与えられぬままに太陽の気配がしてきたかと思うや否や、
この僅かな時間が終わって、蟲や鳥たちが目を覚ましてくるんだ。
そして朝は訪れる。様々な音を連れて。
1日目、天気予報とは裏腹な雨に見舞われつつ歩を進めた日本三大急登のひとつ、黒戸尾根。
2日目は素晴らしい天候に恵まれ展望も最高だった早川尾根。
しかしそれらを差し置いて、一番深く印象に残ったのは、
深い山々を遠く上から見守る、あの希望と生気に満ちた濃い濃い紺色の空と白く光る星、
そして脳を突き抜ける、懐かしくも心地良いあの耳鳴りだったかもしれない。
■2011/9/8(木)
20:10頃 甲府駅
↓ - 1:10 (車移動、途中コンビニなど寄りつつ)
21:20 白洲観光キャンプ場(シュラフ+バグネット泊)
韮崎~白洲観光キャンプ場(黒戸尾根取り付き)間は、通常はバスで移動。白須下車。
この日、仕事が夕方早い内に終わる予定だったが、仮に仕事が予定通り終わっても
終バスには微妙に間に合わない計算。
うーんうーんとオンラインで悩んでいたところ、以前都内某所で一緒に飲んで以来の仲である
としまーさんが、甲府から車を出してくださると仰るので、ご好意に甘えることに。
お陰様で、21時過ぎには白洲観光キャンプ場に到着することができ
翌朝誰よりも早くこの黒戸尾根に取り付くことができたのでした。
ありがとうございました。
というわけで、テント張るのも面倒臭いので、自販機前を陣取って即寝を決め込む。
自販機前ということで、夜も朝も2秒でドリンク買えるし、ドリンク用のゴミ箱もあり、かなり快適。
ほかに車も何台か止まってましたが、中で寝てるような方は見受けられなかったので
おそらく、既に山に入られている方達の車だったんじゃないかなと。
4:00 白洲観光キャンプ場
↓ - 1:20
5:20 笹ノ平分岐
↓ - 2:40
8:00 刀利天狗(たぶんw)
↓ - 1:00
9:00 七丈小屋
↓ - 0:15(水汲み休憩)
9:15 七丈小屋出発
↓ - 3:05
12:20 甲斐駒ヶ岳
↓ - 1:45
14:05 駒津峰
↓ - 0:10(休憩)
14:15 駒津峰出発
↓ - 1:15
15:30 仙水峠
↓ - 0:45
16:15 仙水小屋
↓ - 2:45(テント設営、ご飯)
19:00 就寝
2時半か3時頃に起床。
自販機でブラックコーヒーを1缶、そしてペットボトルのスポドリを1本購入。
スポドリは起き抜けに一気飲み、
そしてブラックコーヒーは一気には飲まずに一部を手持ちの250mlのサーモス(もどき)に入れ、
おにぎりを食べて3時半頃出発。
寝ていた駐車場の隅に取り付きの道標がある。ここからキャンプ場へ向かう山道に入る。
暗い中、神社までほんの数分ほどの道程にも関わらず、神社付近のトイレであれこれ身支度に梃子摺る。
更に、そこから先に進む方向についてまた梃子摺る・・・
まぁ出だしが肝心であるし、最初に間違うと面倒なことになるのはよく解っているつもりだったので
この辺りでの無駄な時間は無駄と思わないことにする・・・
いや、やっぱ無駄か・・・
と、少し行くとキャンプ場の受付のような小屋が現れ、また自販機が出現。
ここが最後の自販機か。
家でエアリアを見ていた時、このキャンプ場に「水場」のマークがなかったので気になっていたが、
まさかこんな標高の低い所にあるキャンプ場で水がないなんてことはあるまい・・・
どこかにこのキャンプ場のための水場があるはず・・・などと思いつつ、
しかし少しだけ嫌な予感がしたのでその最後の自販機で水を1本購入して先を急ぐことにした。
数分後。
もう完全にトレイル入っちゃってるよね、、、水場なくね?
(でも、戻るって言ったってどこまで戻るのよ?水場らしき場所わからなかったよ?)
真っ暗なトレイルは矢張り不気味。ようやく明るくなり始め、少しほっとするも、水は無し・・・ |
この類の碑が多い |
私は500mlの水と、朝のコーヒーの残りだけで七丈小屋まで行こうとしたがしかし
そこは矢張り有名な黒戸尾根、想像以上に喉が渇き、とてもじゃないけど水がもたず、
途中で追い抜いていった黒戸ピストン日帰りの身軽な男の子に
アクエリアスを大量に分けて貰うことに。
最初は申し訳ないやら恥ずかしいやらで500mlペットボトルの空いたところに
足してもらう程度しか貰わなかったけれど、
その彼とは少し後でまた追いつき
「ちょっとあの水の量じゃ心配だったし、空ボトル持ってるならもっとどうぞ」
と声を掛けて頂き、言われるままに更に1Lくらい水分を分けて頂いた。
まさか水ひとつでこんな序盤でこんな無駄に不安になって、しかもその不安を取り除いて頂いて
本当に感謝です。ありがとうございました。
ていうか自分どんだけツメが甘いのだ。。。
黒戸尾根は烏帽子岳へのブナ立尾根(北ア)と谷川岳への西黒尾根(上越)と並んで
日本三大急登と言われ、しかも標高差は他の2つの尾根よりも圧倒的にデカイとのこと。
事前情報でかなりビビっていたものの、蓋を開けてみると案外きつくないなという印象。
一発目の鎖場 |
今日の予報は晴れの筈だが既に空が重い |
エアリアに書いてある鎖場よりずっと手前で鎖場が登場します。
こんなに鎖場バンバンあるなら、わざわざ鎖場なんて書かなきゃいいのにw
しかしこの区間の写真の量の少なさは、やはりなんだかんだ黙々と登っていたんでしょうな。
山道、梯子、山道、梯子、の繰り返し。
写真上の方から上って、今写真の手前のところまで来たところ。 |
刀が祀られている |
この岩を崇めているようで |
右側の、出っ放しの蛇口と、左側の、ひねらないと水が出ない蛇口との差がよくわからない・・・凍結防止? |
皆かなりCTより早目に着くらしい。
私も例外ではなく、CT7時間のところ、5時間程で着いてしまった。
というのも、梯子だの階段だのが多いので、思いの外すぐに標高が稼げる。
ひたすら斜面を上がっていくよりはかなりマシ
(何をキツイと感じるかについては個人差もあるだろうけど)。
ただ、雨の日に突っ込むものではありません・・・
本当はこの日雨なんか降らない予報だったのに、まんまと雨が降り出したりしてさ。
私はとても切なかったよ・・何か悪いことでもしたって言うの・・・
多分割と眺めが良いであろうテン場。まぁ、何も見えませんでしたが |
数名とすれ違う。挨拶に気をとられていると、誰でも解るような梯子を見落として
うっかりザレ斜面に突っ込む・・・
少し前の台風で崩れたのかな?などと思いながら進んでみるものの、
あっけなくずるずると滑落。体の前面ドロドロ。。。
現状復帰に30分以上を費やす。。。
あろうことか、この画面真中あたりの少し茶色の濃いところをずるずると数m滑落。 ていうか何故突っ込んだ |
黒戸尾根はキツイって聞いてはいたけれど、思った以上に岩場的なのとか
鎖ついててオーバーハング気味(ちと表現大袈裟ですが)なのとかあって
テント背負って雨の中を歩くにはなかなか萎える状況が続く。
写真右奥の方から上がってきたところで後ろを振り返っての1枚。 この辺りで、さっきアクエリアスをくれた男の子が甲斐駒山頂から戻ってきたので挨拶する。 速いなおい・・・ |
なんかもう色々と大変。止まると寒いし。 |
そうこう言ってる内にようやく甲斐駒山頂到着。
当然展望なし。摩利支天も見えない。
展望がないので写真だけ撮ってとりあえず進みます。
エアリア上、一旦摩利支天の方へ向かってから駒津峰へ向かう道は実線で、
摩利支天に向かわずに直接駒津峰に向かう道は破線なのですが、
ガスっていたこともあり、流石に実線の方を歩くことに。
というか、甲斐駒山頂から延びてる道って、このルート以外全部破線なのね。北も西も。
というわけで来た方へ一旦戻り、駒津峰を目指す。
とりあえず摩利支天方面に向かう |
何も見えない |
赤いテープが所々にあるのでそれを辿りながら進む |
駒津峰山頂はなかなかの強風だったのだが、甲斐駒側でお味噌汁を作っている
オジサン2人組に遭遇。ここまで1日で来たと言ったら凄く驚いていた。
「オジサンたち、CTの倍ぐらいかかるんだよー」
ってそれは流石にかかりすぎじゃないか?
と、先へ進もうとしたらなんと山の南側から青空が出てきたので嬉しくなって
もう一度登り返してオジサン達に青空報告!
ようやくお目見え!こんなに景色の良いところだったとは! |
鼻にティッシュ詰めて仙水峠を目指す。
押さえたままでは歩けないのでこの後鼻栓を作成。小さい頃から鼻血よく出していたので鼻栓作るのは得意・・・w |
仙水小屋まで30分以上下らないとテン場がないのでやむを得ず下る。
仙水小屋と逆側の空はもう完全に晴れた |
仙水小屋方面はまだ多少雲が残っている |
ゴーロで歩きづらい。ケルン多数 |
小屋が近付いてくるとこんな感じのトレイルに |
なんだかやたらと客の多い小屋だったが、誰も彼も皆小屋泊でテントは私だけ。
17時半過ぎにようやく1人テントの人が現れたが、、、装備を観察していると
敷物にタイベック使ってるw
あんまり山で本当にタイベック使ってる人に出くわしたことがなかったので少し驚き。
気になったが、とりあえず明日の準備だの何だの慌しいので話しかけずに終わった。
駒津峰あたりから晴れてくれたのでレインウェアも大分乾いてはいたが、まだ少し濡れているのでテントに干す 奥に少し見えるのが仙水小屋。テントの右の方に小屋へ向かう道がついていて、 小屋の手前に水場がある。 |
赤飯にグリーンカレーw というわけでカレーに黒ゴマが浮いている。そんなことは気にしない。 まだまだ明るいし寒くもないので外で食べながら地図を広げる至福のひととき |
4:00 仙水小屋
↓ - 0:40
4:40 仙水峠
↓ - 1:30
6:10 栗沢山
↓ - 1:30
7:40 アサヨ峰
↓ - 0:10(休憩)
7:50 アサヨ峰出発
↓ - 2:00
9:50 早川尾根小屋
↓ - 0:20(水汲み休憩)
10:10 早川尾根小屋出発
↓ - 0:30
10:40 広河原峠
↓ - 0:50
11:30 赤薙沢ノ頭
↓ - 0:20(ツイートを試みるも失敗)
11:50 赤薙沢ノ頭出発
↓ - 0:15
12:05 白鳳峠
↓ - 1:45
13:50 林道
↓ - 0:15(足がくがくでちんたら・・・)
14:05 広河原到着
最初はこの通りの予定で、台風の影響で広河原線のバスが止まっていたため
御座石温泉に下りようとしていたのだが、仙水峠のあたりでtwitterなどチェックしていたら
広河原線通行止め解除、そしてバス復活が確定したとのことだったので
御座石まで行くのは止め、結局広河原下山で手を打つことに。
御座石だったら1時起床3時出発じゃないと危険だと思っていたが、大人しく2時起床4時出発の
広河原コースに変更。
又、大分距離縮めて時間的余裕が出たので、広河原峠ではなく白鳳峠まで行ってから
広河原まで下りることに決める。
仙水峠に向かって暫く木々の中を歩くと、昨日来たゴーロの道に出る。
すると遮るものの無い広い空が現れる。
漆黒ではなく、濃い紺色の空。そこに白いつぶつぶがチラチラと瞬く。
しばし立ち止まり、キーンという耳鳴りと森の放つ振動のようなものに身を委ねる。
あまりのんびりもしていられないのでとっとと歩を進めることにするが、
この瞬間は何にも代え難い貴重な瞬間だったと思う。
何に似てたんだろう、何を思い出したんだろう、なんだかよくわからなかったけど。
1人で山に行くのって全然違うなって思った。
人の気配のあるテン場から出発してもこうなんだもの、
人の気配のないルート上で1人だったらどんなにその状況が神々しいのかと想像すると、
これから歩む山登りという趣味の奥深さにうっとりしてしまう。
甲斐駒! |
拝めるようになったw
ここまで一度も甲斐駒の姿が見られなかったというのも、何という運の悪さ。
日が完全に出切ったところで栗沢山到着。素晴らしい眺めを独り占め! |
尾根尾根尾根! |
しかしトレイルが見えない程に木や草、ハイマツが生い茂っている。 |
少しルート取りが分かりづらいがテープを辿って進む |
兎にも角にも美しい |
何故か山頂付近に三角の旗がwww |
富士山を見ながら歩く。とにかく眺めが素晴らしいのでアホみたいに写真を撮りまくったw |
早川尾根小屋でテントを張っていたらしい。
この辺りとても良い雰囲気。
実線ルートの割には全体的にイカツイし、岩多いし、ペンキマークやテープが少し
見えづらいので、ガスっていたらなかなか気持ち的にもしんどそうなルートです。
そして樹林帯に入る。案外急。
ハイマツ帯もそろそろ終盤 |
野呂川? |
ここでワンコを愛でる。
人なつこい |
少し悲しげな目をしているのは、そのせいなんですかねぇ。
水場で水をたんまり汲んで下山。
もうここから先そんなに水いらないはずだけど、美味しいのでたくさん汲んで持ち帰ることに。
結構な勢いで水が出てます |
こんなとこ走るんかい。変人め。
広河原峠到着 |
赤薙沢ノ頭付近で最後の最後に眺めが良くなるので、時間に余裕があるなら是非白鳳峠から下ってみてください。 広河原峠から下るより絶対におすすめ。 そして、この赤薙沢ノ頭でツイートしようとして20分も費やした挙句、雲が迫ってきて焦る。 ドコモ使ってますが、この山頂は電波入るけど安定しないです。 |
白鳳峠着 |
ここまで大分歩いてきてるからキツく感じたんだろうか?
CTより少し早く下りられたとはいえ、かなり最後はガクガクに。
一気に1000mくらい下りるのだから、無理もないか。
白鳳峠を振り返って1枚ぱちり。 この辺りで2人組の男の子に出会い、少し会話。 男「あとどれくらいですか?」 私「そこの凹んだトコですよ」 男「え、そこですか???」 私「白鳳峠ですよね?だって峠…」 男「あ・・・峠ってあれなんだ・・・有難うございます」 ・・・どうやら一番高い所に「峠」という名前がついているものだと思っていたらしい。 ゴールが思ったよりも近くでよかったね。 |
日差しが上からと下からでほんとに暑い。そして歩きづらい。 |
だそうですよ。 |
白鳳峠を下り始めた辺りでデジカメのSDカードがいっぱいになってしまって、ここの下山路の写真が殆どない。 林道に出て振り返ったところでCT記録もかねて1枚。 |
初めてのソロテン泊にどこへ行ったかという話は一生ついて回る
(そんなこともないだろうけど)と思って考えた挙句、
自分で納得がいき、人に話して恥ずかしくない、ぬるいと言われない、それでいてハイレベルすぎず
ちゃんと2日で下山できるルートを、と思ったらこういうことになった。
天気のせいで思いの外過酷になった黒戸尾根ではあったけれど、
普段行ってる山に比べれば全然厳しくなかったし、かと言って楽でもなかったけど、
とてもいい山行になったと思う。最初に書いたけれど、いつも2人以上で行くことが多いから、自分で音を立てなくても
誰かが立てた音がする訳で、ここまでの静けさを味わうのって一体いつ以来なんだろうと思った。
こういう静寂な場所にぽつんと居ると、自分の体内と対外との境界線が消えて
自分がどんどん拡がっていく感じがしてとても不思議。
でもこの感覚は今に始まったことではなくて、昔から知っている感覚だし、
でも何処で味わったのか具体的には全く覚えていない、体が知っている漠然としたイメージのようなもの。
こういう感覚をふっと思い出してその記憶に潜るのはフィジカルな意味での体ではなくて
完全にメンタルな意味での体(自分という拡がりみたいなもの)。
この感覚は、格好良い音が完璧な音質でスピーカーから流れてきて、
その音に完全に支配されて踊る時の感覚に近い。
多分、同じような感覚になったことのある人なら解って貰えると思うんだけども、
音と山との共通項を知る人ってとても少ないと思うから、案外理解されづらいかも。
音に傾倒してる人には山を、山に傾倒している人には音の世界を是非知って貰いたい。
しかもどちらに対してもディープに。
Dozzyのアンビ聴きながら早朝の山なんか歩いたら、快感すぎて死んでしまうんじゃないかと思うよ!
ヤマレコはこちらからドゾ!
うん。
返信削除何か全体的に感動しましたよ。
伝えようとして書く文章ってイイなと思う。
今後もブログ、頑張ってちょ。
俺は何となく少し反省。。。
>工場長
返信削除貴重なコメ、ありがとうございます!
ブログ書かずにためてしまっている山行の中から、
順不同で、書きやすいものから書いていたら、日付の新しいものが
いつもいつも上にあがってしまって、書きたてほやほやの記事が
上に来ないという呪縛で、折角書いた記事が静かに眠りにつくところだったですよw
工場長が起こしに来てくれた(涙)。
工場長のブログは楽しいし読みやすいのが売りですよ!!
私はどんどんどんどん長くなってしまって、反省。。。
私が「書かないと・・・」って悶々としてるとマスタが
「工場長みたいにすればいいんだよ!
ぐへぇ。うははは。とかw」って、いつも横から口出ししてます。