しかし11時を過ぎると、少しずつではあるが風が弱まってきた。お隣りのテントの3人組はその時軽く宴会を始めていたらしいが、風の弱まりには気付いたらしく、11時20分頃になるとボーコン沢ノ頭までとりあえず散歩だといって軽装で出発をした。
私はその頃雪を溶かして水を作っていたのでそのまま彼らを見送り暫くテントの中に居座っていた。しかしいくら待っても彼らが戻ってこないという現実と、風が弱まってからかれこれ1時間近く経過し、今もまだ弱まったままだという事実を鑑み、自分もいよいよ北岳の山頂を目指すことにする。とはいえ、いつまたあの突風がやってきて稜線で身動きが取れなくなるかも分からない。シュラフカバーとダウン、行動食とサーモス、エマージェンシーなどを急いでザックに詰め込むと、テントを出た。
ボーコン沢ノ頭に到達するとそこは無風だった。今朝の強風が嘘のようだ。数時間でこんなにも違うものかと驚く。これはいけるかもしれない。そのまま歩みを進めていくと、遠く小さく三人組の姿も見えてきた。
踏み跡はしっかり |
段々と斜度が出てくる |
一旦降ってまた登る。ここのロープ×岩と雪のミックスは結構嫌らしかった。慎重にゆく。 ちょっと写真だとわかりづらいけれど、今からこのロープ伝いに降るところ(八本歯より手前) 荷物が大きかったら、結構大変そうだなぁ |
山頂まであとすこし!と思うものの、なかなか着かない・・・ |
吊尾根分岐点に到達。ここから左に行くと北岳山荘方面(間ノ岳方面)、右に登ると北岳山頂 |
ここから一気に壁のようなルートが現れ、ピッケルのピックを打ち込みながら攀じ登ること暫し。そこを抜けてすこしだけ尾根を進むと、嗚呼、遂に現れた北岳のピーク!
がっつり一眼レフな方が写真を撮る様子を私が撮るw |
登ってきた夏道を後ろ向きに降りていく二人を見つつ、 もう一人が左の尾根の方が安全そうだといって歩き出す。実際尾根上の方が安全だった・・・ |
かたやアタックザックの私。この人行くのかな、行ける人がいるのに私はいかないのかな、、、色々な思いを抱きながら彼を山頂へと見送る。全て担いでここに来ている彼に対して羨ましいと思う気持ちはとても強かった。
いずれにしてもこれから私がテントを畳んで北岳山荘に向かうことはできないので、三人組と共にテントに引き返す。
楽しき三人組 |
ベストショットが撮れる!ということで撮影会が始まりまして |
これが延々続くわけですよw |
そして撮っていただいたのがこんな写真 photo by Hasegawa-san |
ありがとうございます。photo by Hasegawa-san |
今回はお正月ということで日本酒を持ってきていた私は、ペットボトルに入れ替えた300mlだけの上善如水をチビチビやりながらアタリメを齧っていた。これはこれで美味しいのだ。しかしなかなかどうして質素な夕飯にもかかわらずすぐにお腹がいっぱいになってしまってそこから先の嗜好品が進まない。運動量は確かに少ないかもしれないが、標高の高いところにいるだけでカロリーの消費は激しい筈だ。だとしたらこれはなんだ、いつもの高度障害か。
午後の山頂アタックでは幸いにして高度障害はそれほど出なかったため割と良いペースで登れたのだが、そのことがそもそも奇跡みたいなもので、私は2700-2800mを越えると必ずと言っていいほど高度障害が出る。高度障害が出るとペースは極端に遅くなり、脈拍は上がり、場合によっては下痢をしたり気分が悪くなったり頭痛がしたりする。幸い今回は極端な症状はでていないが、この食欲減退はおそらく高度障害なのだろう。そして標高が高いとお酒のまわりも早くなると言うが、少量の日本酒は弱った私の頭と体を静かに力強く掻き回していった。掻き回されながらも必死に地図を見て、間ノ岳ピストンをした場合のCTを計算したりなどするも、いやこれ午前中だけで戻ってこられないし、午後から風強くなるとか天候悪化するとか言われたらいけないでしょとか考えているうちに300mlであっという間に限界を迎え、そのまま撃沈。もう明日は降りるくらいしかやることはないのか。おやすみなさい・・・
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2017/1/2 (Mon)
10:55 幕営地
↓ - 0:35
11:30 城峰P
↓ - 0:35
12:05 池山御池小屋
夜中は暫く風が強くて眠れず、25時半くらいになって風が止むと今度は一気に気温が上がって暑くて目が覚めた。まさかの0度(暑いわけだ)。暑すぎてダウンを脱ぎ捨て、シュラフから半身出た状態でようやく深い睡眠に入り、そのまま朝を迎える。日が昇ってきて眩しいなと思いながら起床するとはなんと贅沢な。まぁお正月だからいいか。何日目に見た夢だったかは忘れてしまったが、赤い雨が降ってきて何コレって言っていると、遠くに見える坂道を死んだ人達が頭を下にして雪崩れてくるのが見える気持ちの悪い夢があった。その迫り来る死んだ人達は全員が自殺をした人達で、その波に飲まれるとこちらも死んでしまうため、恐ろしくて死にたくなくて、近くにいた仲の良い友人と手を取り合って死にたくない!と言い合っていた。別にそんな怖い思いをした山行でもなかったし、何が引き金となってそんな怖い夢を見たのか皆目見当がつかないけれども。
三人組がボーコン沢ノ頭へ最後の散歩に出掛け、そして戻ってくるのを隣から見守る。自分もテントを撤収してから登りに行ってみることにした。きっとそうそう頻繁に来られるところでもないだろうから。
結局例の小林くんは北岳アタックの後で強風に恐れ慄いて引き返してきたらしい。この強風であの稜線に居たら、進退極まっていただろう。彼の判断も正しかった。私が出会ったすべての人が無事で本当によかった。
↓ - 0:35
11:30 城峰P
↓ - 0:35
12:05 池山御池小屋
三人組がボーコン沢ノ頭へ最後の散歩に出掛け、そして戻ってくるのを隣から見守る。自分もテントを撤収してから登りに行ってみることにした。きっとそうそう頻繁に来られるところでもないだろうから。
結局例の小林くんは北岳アタックの後で強風に恐れ慄いて引き返してきたらしい。この強風であの稜線に居たら、進退極まっていただろう。彼の判断も正しかった。私が出会ったすべての人が無事で本当によかった。
バットレスを目に焼き付ける |
最終日のお酒は黄アーリーのお湯割り。 そして毎日すこしずつ消費してきたbacon smoked nutsとhoney loasted nuts、そして魚肉ソーセージをツマミに。 美味い!合う!! |
シュラフ干し、靴干し。 |
ほうとうあるんですけど食べてくれませんかと宣うこのお方、手には360g入りの茹で麺のほうとうがある。汁は大きめのジェットボイルに入っていて、仲には魚河岸揚げみたいな丸いがんもどきのようなものが浮かんでいる。や、美味しそうだし食べたいし。私が予定していた今夜の夕飯はカレーメシだけど、そんなの持って帰るわ。食べます、いただきます。食べきれなかったら明日の朝食べますっ!!と即答して、頂いたのがこちら。
汁は私のジェットボイルに移し替えてもらった |
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2017/1/3 (Tue)
7:10 池山御池小屋
↓ - 1:40
8:50 あるき沢橋BS
↓ - 3:25
12:15 開運隧道ゲート
ほうとうをいただく直前くらいに三人組から「明日は7時出発くらいで良いですか?」と声をかけられていたので、酔って眠いながらもきちんとアラームを掛けて対応。。。
朝焼けが美しい |
朝も早よから撮影をする人々w |
林道に降りて振り返ると、遠くの山々には盛大に雲がかかっていた。このあと林道でも降雪があった。 今日は上の方きっと相当荒れているだろう・・・ |
Mさんザックでかいよね、Mさんは体大きいからわからないけど、俺が入りそうだよ! と言ってHさんが並ぶとこんな感じ。ザックでかいw |
このあと温泉に浸かって解散。私はMさんの車で甲府へ。 |
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行こうとしていた農鳥岳付近の登りは結構険しく、落ちたら止まらないと聞いていたので、もしも本当に行っていたとしたらかなり痺れる山行になっていたと思う。今回は強風という理由で三山縦走ができなかったのだと大腕振って言えるけれど、強風という理由がなかった場合はきっと駒を先に進めない理由はほとんど無くなっていて、先に進まざるを得なかっただろう。
そのまだ見ぬ雪の壁に立ち向かえるのかどうかについては不安があったので、強風という撤退理由があって良かったなと思っている自分がいるのも否定はできない。季節が進んで入山する人が減り、トレースがなくなれば、ここはもう私にとっては難しい場所になるだろうし、また暫くは挑むことさえ許されない厳しいものになると思うが、とても抗うことなんてできないと思えるほどの強風を体感し、白くうねりながら空を割く生き物のような美しい尾根を見ることができ、次にまた挑戦したいと思える対象ができたということが、今回の大きな収穫だったようにも思う。嗚呼、これだから雪山は楽しい。
またいつか会いに来よう。
行こうとしていた農鳥岳付近の登りは結構険しく、落ちたら止まらないと聞いていたので、もしも本当に行っていたとしたらかなり痺れる山行になっていたと思う。今回は強風という理由で三山縦走ができなかったのだと大腕振って言えるけれど、強風という理由がなかった場合はきっと駒を先に進めない理由はほとんど無くなっていて、先に進まざるを得なかっただろう。
そのまだ見ぬ雪の壁に立ち向かえるのかどうかについては不安があったので、強風という撤退理由があって良かったなと思っている自分がいるのも否定はできない。季節が進んで入山する人が減り、トレースがなくなれば、ここはもう私にとっては難しい場所になるだろうし、また暫くは挑むことさえ許されない厳しいものになると思うが、とても抗うことなんてできないと思えるほどの強風を体感し、白くうねりながら空を割く生き物のような美しい尾根を見ることができ、次にまた挑戦したいと思える対象ができたということが、今回の大きな収穫だったようにも思う。嗚呼、これだから雪山は楽しい。
またいつか会いに来よう。