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2015/02/22

20150221-22_谷川岳-茂倉新道(後編)


焦らずに落ち着いて淡々と目の前にあることを続けていくということは難しくて、けれどそうすることこそ、最も確実に結果に繫がるのだと、きっと誰もがわかっている。わかっていてもなかなかできなくて、だからこそもどかしい。それでつい、やればできるんだと強がりを言う。自分にはそれができないと知っていて、自分を茶化しながらそう言う。そして心のどこかでずっと焦ってもやもやしている。そんな堂々巡りを繰り返すのが下界での生活だとしたら、せめて山の中だけでも淡々と歩みを続けてみたらいいのかもしれない。そうしないと死んでしまうんだから、そうしないと山から降りられないのだからきっとできる。山でしかそれができないとしても、それはそれでいいじゃないかと思う。
こうして繰り返した淡々とした歩みが、森林限界より上にいた私を樹林帯へと導いてくれた。それにしても、すぐ近くに見えていたはずの樹林帯の遠かったことといったらなかった。結局茂倉岳から樹林帯までの所要時間は2時間ほど。CTで茂倉岳から矢場ノ頭まで55分とあるから、ほぼ倍と思えば通常の私の雪山CTの計算通りではあるのだけれども。

矢場ノ頭のピークは北斜面をトラバースして巻いた。南斜面のクラックが大きく怪しかったのと、ピーク直下の尾根の斜面が意外と急だったからだ。それでもまだ尾根は続いている。右にカーブする尾根とわたしを、太陽が左側から低く照らしていた。遠くの稜線に太陽が近づいてゆくのを横目に確認しながら、緩やかにおちてゆく尾根の東側を黙々と進んでゆくと、17時半頃、ようやく樹林帯と呼べる程度に木の生えた場所へ突入した。間に合った。

16時過ぎから風が出てきていたので、このまま明日までどんどん風が強まるのかなと思いきや、日が落ちた17時半過ぎには風は一旦止み、テントを張る必要があるのかどうかと迷う程だった。バスタブ型の簡易雪洞を掘ってそこに蓋をして寝る程度にしておこうか、そうすれば空を見ながら眠れるなとか、でもやっぱり夜中は寒いかもしれないし、寒くなってからテント張るの面倒だしなとか、あれこれ考えた挙句、結局テントが3分の1ほど埋まる程度の穴をなんとなく掘ってそこにテントを嵌め込んだ。ご飯食べてとりあえず就寝。
余談だが、某100均のシリコンの漏斗がジェットボイルの下のところにぴったりはまる
下界の光が空に反射して明るい(カメラの設定で実際より明るく写っているけれども)
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テントの内側に張ってある細引きにひっかけておいた2本のブリザードステイクがカチャカチャいう音で目を覚ますと、外は強風だった。まだ午前2時。ここから5時間ほどひたすら強風で、途中少し眠れない時間帯もあったのだけれど、それでもどうにか意地で眠り続けて朝を迎える。陽が出たら少しはおさまるかなと思ってダラダラしていたら案の定風がおさまった。出発は少し遅めの8時。テントを畳むと、風のせいか、一箇所テントポールが歪んでいた。
全部ガイラインを張ったわけでもない中途半端な設営でよくもあの強風に耐えたものだ・・・樹林帯でよかった
というか半端な設営でごめんなさい
吾作新道方面の眺め
踏み抜きそうなので、暑いだろうけれどシェルを履いていざ出発
もうここまでくればあとはCT1時間半の樹林帯歩き、倍で計算しても3時間だし余裕で下山できるだろう。そう思って歩き出したのだが様子がおかしい。雪深い谷川エリアの樹林帯とはこんなにも手ごわいものなのか。2013年12月に雪の降る中このルートを登って矢場ノ頭で撤退したことがあったのだけれど、その時この辺りは何のことはないただの雪道だった。しかし時期が進み、とりわけ雪の多い今年ともなると訳が違う。細い尾根に積もり過ぎた雪は明らかに頭でっかちすぎて、地面がどこまであるのかさっぱりわからない。思いの外尾根の左右は切れ落ちているし、結構際どい尾根歩きが続く。平らな尾根の筈なのに、風の具合や地面の凹凸に影響されて雪が波打ちアップダウンが激しい。ただ、この辺りには道案内のウサギがいた。姿は見えなかったけれど、かなり新しい足跡があったので、彼らの通ったルートを参考にしてルート取りをすることにした。彼らが通って通れたからといって私が通っても安心だという保証はないけれど、彼らが歩けないと判断して諦めたルートを私が敢えて選んで歩く必要はないのだから、それだけでもだいぶ助かる。野生の感覚というのは素晴らしいな。
数メートル先の木にたどり着くのに、登ったり降りたりしなくてはならない。
うっかり笹やシャクナゲの上を歩いて踏み抜くと、一気に肩まで雪に埋まる。這いあがるのも一苦労。
ここまでくればなんとか雪の具合も落ち着いてくる。結局下までずっとトレースは無し。
尾根が少しずつ広くなってきてひと安心。このあともう一度細い尾根が現れたけれど、標高の高いところより積雪量が少なくなっているため大分ましだった。あと少しでこの山行が終わるなと思いながらも、最後まで油断はできないから、来し方を振り返って山に声をかけた。あと少し宜しくお願いします、そして今とても楽しませてもらっています、と(作り話じゃなくて本当に口に出してる)。

雲がすごい速さで遠くの稜線を通り抜けていて、その様子が木々の間から見え隠れしていた。もしも私が稜線上で幕営していたら、今あの稜線を歩かなくてはならなかったのだろうなと思うと恐ろしくなって震えた。
道路は目と鼻の先
朝10時過ぎに下山するとそこは雪原だった。しばし余韻に浸りながらクリーム玄米ブランをかじり白湯をすする。上は強風だろうけれど、下は穏やかで良いお天気。誰もいない。
すぐそこは高速道路なのにこの穏やかさ。ここでもう一泊したいくらいだ
最寄り駅の土樽まで歩けるので歩こうとしたら道を間違え、気付いたら高速道路に迷い込むというオチ。パトカーに乗った巡回中の新潟県警の警察官に呼び止められて、結局越後湯沢まで運ばれてしまったというとんでもない旅の終わりとなったが、なんとか無事にこのルートを踏破することができた。

この日にこのエリアを選んだこと、この方向で登って降りると決めたこと。そして勇気をもってロープウェイであがったこと、足を置く位置を一歩一歩選び続けて、それがひとつも間違わなかったこと。焦らずに急いで、土曜日のうちに樹林帯まで行けたこと、稜線ビバークの誘惑に打ち勝ったこと、野営ではなくきちんと幕を張って眠ったこと。万が一のために何度か自分の位置をツイートしたこと。きっとどれが欠けても今回の結果は残せなかったと思う。いずれも私なりに重ねた経験からくる判断だったのだろうけれど、死なずに済んだのは判断が正しかったからではなく、ひょっとすると単に運が良かっただけなのかもしれない。でも本当はそんなことじゃいけない。本当は賭けで山を歩いたらいけない。とはいえ大自然を相手にしているのだから絶対大丈夫ということもない。ただ、賭けの割合を減らすことはできるし減らしていくべきではあるのだろう。賭ければ賭けるほどアドレナリンが出るというものでもないだろう。今回出てきたアドレナリンは、賭けたから出てきたのはなくて、私なりに考えて下した判断がきれいにはまってくれたからこそ出てきたのだろうと思う。

雪山をはじめてもう何年も経つが、ソロでここまで雪深いところにノートレースで入ったのは初めてのことだったと思う。アドレナリン山行は精神疲労を伴うから、山から帰って2日目の今日はとてもとても眠い(普段私はほとんど眠くないというのに)。でもその分清々しい充実感があるのも確か。クリスタルボウルの演奏をきいたりすると、音の粒子が体に入って細胞のすべてが綺麗に整列したようなすっきりした感覚になるけれど、アドレナリン山行の後というのはそれに近い感じがする。1-2日もすればこの感覚は消えてまた元に戻ってしまうということを私は知っているし、直後の感覚の永続性なんて決して求めていない。だからこそまたこの感覚を得たくて繰り返しアドレナリン山行を求めるのだろう。危険度をあげていって出すアドレナリンよりも、自分の判断でルートを歩けたというアドレナリンの方がきっと純度が高い(純度ってなんだろう?)。次の冬はひと冬費やしてしっかり雪山と向き合い、確かなものを積み重ねたいと思う。長く付き合っていくために。

2015/02/21

20150221-22_谷川岳-茂倉新道(前編)

すべての判断がピタッとはまった。この言葉に尽きる。

今の私が雪山でできることなんてそう多いわけではないし、判断できるだけの知識も少ないし経験だって浅い。正直知識を増やす努力だって怠っている。今回のルートをこの時期に行くべきでなかったという人もいるかも知れないし、私の判断が正しかったかどうかは判らない。ただ、谷川から先、誰の足跡もないルートに足を踏み入れた以上、今の私にできる最大限のことをしなくてはならなかったし、そうでないといけなかった。だからそうした。「私が居ようと居まいと関係なくいつだってそこにある山」と、「山たちの日常にたまたま分け入った私」、両者を隔てる境界線はとても細くて見えづらいけれど、しかし明らかな境界線があるのだと認識した状態で山たちの今の状態を教えてもらいに懐に飛び込み受け入れられて我を忘れ、そしてまた我に返って自問自答を続ける。山の中にいた時間はおそらくたったの24時間程度だったけれど、稀に見る恍惚のひとときだった。
10:00 天神平
↓ - 2:00
12:00 肩ノ小屋
↓ - 0:39
12:20 トマの耳
↓ - 2:10(オキの耳の山頂標見逃す)
14:30 一ノ倉岳
↓ - 1:00
15:30 茂倉岳
↓ - 2:00(矢場ノ頭のピークは踏まず少し巻いた)
17:30 1392m地点(矢場ノ頭より少し下)

個人的には夜のうちに出発して現地に前乗りしておく方が好きなのだが、このエリアへ行こうとすると終電が早すぎて途中までしか行かれないため朝出発することにした。土合駅着8時半頃。これまでに何度もこの駅から山に向かっているけれど、いつも車だったのでホームに降り立つのは初めてだった。駅があまりにも深いので、地上に出るまでにちょっと疲れてしまったのはご愛嬌・・・
谷川は晴天率が低いと言われているけれど、この日は本当に良い天気の予報。朝から雲ひとつない。ただし日曜日は強風が吹き天気は崩れるという。さてこれをどう見るか。

私は実はまだ谷川岳のピークを踏んだことがなかった。肩ノ小屋まで行ったり、近くを歩いたりはしているのに、ピークには一度も行っていなかった。当初の予定は西黒尾根-谷川-茂倉岳-茂倉新道というルートだったのだが、土合の駅で地元のおじさんに話しかけられて、西黒尾根へ一人で行くと私が伝えた時の、おじさんのぎょっとしたような顔で色々悟ってしまった。トレースは多分ないと言う。ならば今日中に肩ノ小屋まで行かれないだろう。

ぐるぐる考えた。今回の目的は何だ?西黒尾根か、それとも谷川岳のピークか。茂倉新道までの縦走か、西黒尾根のラッセルか。たしかにどれも目的ではあったけれど、ピークも縦走も日曜日になったら叶わないはずだ。西黒尾根を調子よく登れたとしても、日曜日に強い風が吹けばピークも縦走もできずにそのまま降ってくるしかなくなってしまうだろう。土曜日にこの快晴無風で稜線を歩ければ、茂倉新道までいけるかもしれない。

やはりロープウェイに乗るしかなかった。文明の利器で上にあがるのはあまり好きではないのだけれど、致し方ない。
ピーカン
さすがの晴天で登山客はかなりの数。10:00過ぎからのんびりと登り始める。BCの人も多く、スキーやスノーボードを背負ってのハイクアップも多数。山スキーを始めたい身としては、あれこれ聞いて回りたかったが、如何せんまだ自分でまだ全然調べ切れていないので質問のしようがないし返事を貰っても理解できないだろう。人との会話などは一切諦めて黙々とのぼる。
雲ひとつないとはまさにこのこと 
肩ノ小屋はこれくらい埋まっていた
思っていたよりも時間がかかり、しかし思っていたよりはゆるふわでトマの耳に到着。もっと急峻なのかと勝手に思っていたので若干拍子抜け(調べてない)。。。とはいえ、天候次第では大変になるのだろう。人のいる山なので、人に撮影してもらったりなどしつつオキの耳に向かう。
ヒールリフターあげたままなので背伸びしてるみたいになってる・・・
オキの耳は山頂標が見当たらなかったので写真を撮ることはできなかった。オキの耳と思われる場所をすぎてもすぐ前に先行者がいたのでそのまま私は後を追う。その人が途中で立ち止まったのでどうしたかと尋ねると、「この先トレースないですね」と言い、その彼はあっさり引き返してしまった。私はそこから一人と覚悟しつつアイゼンに履き替えたが、潜ってしまって歯が立たず結局再びスノーシューに戻した。結局その先行者は大きな岩の左側を巻くようにつけられたトレースを見落としていただけだったので、私はそのトレースをたどることにした。

しばらくすると、向かう先からこちらに向かって歩いてくる2人組の姿があった。これはもしかして茂倉新道からきた人なのではと期待を寄せるも、すれ違う時に話を聞くと谷川からピストンしただけとのことだった。というかそもそも一ノ倉岳も登れずに引き返したという。。。二人とも耳が不自由なようだったのでジェスチャーで会話をしたため、話の細かいニュアンスはわからなかったのだが、引き返すくらいだからおそらくトレースは無いのだろう。無理なら引き返すし、私は今シュラフを持っているから、いざとなったらここで眠れる、と伝えて別れた。

ひとまずこの人達のトレースのあるところまでは行ってみようと思ってさらに進んでいくと、今度はわかんをつけたソロの外国人がこちらへ向かってきた。今日の雪質は良くない、落ちそう、途中で引き返してきた、すごく危険、いくなら気をつけて、一番遠くまでついてるトレースは僕のだよ、とのこと。そこまで言われると私も尻込みせざるを得ない。彼らと比較して私の実力が上である保証はないし、彼らが行けない場所へ私が行けるのかどうかは全くわからない。

外国人がつけたトレースの末端に着いた。その先の斜面を眺め、さらに進むかどうか私自身も考える。しかしここさえ越えれば先の急登はそこまで危なくもなさそうだし、ここも慎重に行けばそれほど危険というわけでもなさそうだ。確かに雪は緩んでいるし崩れるけれど、すぐに止まるし、自分と自分の荷物の負荷がかかっても耐えてくれそうに見える。それに、万が一滑ったとしても雪崩れそうではないし、斜度からいっても上がってこられるだろう。

慎重に雪の状態と斜度を観察して、一番良さそうなラインを脳内にイメージしながら一歩一歩進む。クリア。外国人が諦めたポイントを通過したら、今度はさらにその先の尾根に大きくせり出している雪庇を遠巻きに予め観察して進む。あの岩の先は雪庇が消えているから尾根寄りをいっても大丈夫そうだな、とか、あそこまでは危なそうだからなるべく尾根に近づかないようにしよう、とか。
一ノ倉岳の最後の登り。右側(東)に雪庇ができているけれど頂上のほうには雪庇はない。
風で雪面に海老の尻尾がたくさん。舞茸みたい
気温が上がりすぎてとても暑い。海老の尻尾も少し柔らかくなっていたので、手当たり次第にもぎ取ってはシャクシャクと齧りながら登る。冷たくておいしい。
来し方を振り返る。斜面にうっすらと自分のトレースが見える
一ノ倉の最後の上り斜面も近付くと割と複雑な凹凸と傾斜の変化があったので、あれこれ考えながら登っていった。登り終えても避難小屋や山頂標は完全に雪に埋まって一切見当たらなかった。雪原のような平らな山頂。
スノーシューで多少沈むくらいの積雪と締まり具合。バフバフ歩いて楽しむ
一ノ倉岳に今日登った人は誰もいない筈だよ、と外国人が教えてくれたけれど、何人もこのピークを求めて諦めて、そこに私が立っているというだけでもう十分なんじゃないか?なんならいっそここで野営して明日引き返すのでも十分楽しめるんじゃないか?明日の強風はどれくらいのものになるのだろう。そしてこの先のルートはどうなっているのだろう・・・

どうせ一ノ倉岳の山頂はしばらく平らなのだから、少し進んだところで戻るのはさほど大変ではないだろう。引き返すにしても、とりあえずこの先の茂倉岳をこの目に焼きつけておきたい。そんな想いで茂倉岳の姿が見える辺りまで歩みを進めることにした。すると、ぬらり、と眼前に現れた堂々たる頂とうつくしい尾根。さて・・・
うねる稜線
戻るか進むかふたつにひとつ。このぬらりとした稜線は果たして私の手に負えるものなのだろうか。そして、あのピークに立たなければ見ることのできない、その先の茂倉新道はいかほどのものなのか。茂倉のピークまで登ってから、やはり無理だと判断してひきかえすとしたら、日没までにどこまで戻れるのか。後ろを振り返ると、正午過ぎに通過した谷川岳のピークは遥か遠く小さい。一ノ倉岳山頂現在の時刻は14時半。

登ったからといって降りられない場所ではないだろう、無理なら勇気を持って引き返そう。そう判断を下して茂倉岳にとりかかる。近づけば近づくほど目に入ってくる南西斜面の大きなクラック。尾根の左をいったり右をいったり、雪庇、左右の斜面の角度、クラックと相談しながら自分でラインをひいてゆく。誰もそれが正しいと言ってくれないし誰もどこがいいか教えてくれない。一歩一歩が自分に任されているとこんなに強く感じた山行が今までにあっただろうか。
茂倉岳山頂付近
15時半。茂倉岳の山頂付近に到達すると、茂倉新道の全貌が明らかになった。ズバーンと降ったその尾根の先には樹林帯が見えた。ギリギリ射程圏内のようにも、そうでないようにも見える。
写真左手前から右に見える高速道路に向かって伸びる尾根が茂倉新道。
向かう先が見えているというだけでだいぶ安心できる。好天て素晴らしい。
尾根の様子(拡大)
手前はいい。しかし樹林帯に入る前までこの調子で歩けるのか。尾根伝いに歩けない箇所で、果たしてトラバースができる程度の傾斜なのか。雪崩れることはないのか。クラックはどうか。雪質はどうか。気温は高いし、この数時間太陽に照らされているし、そもそもアイゼンの効くような雪でもない。ここまでずっとスノーシューだけれども、このままこのスノーシューで歩き続けることはできるのか。しかし目と鼻の先には樹林帯、その先には道路まで見えている。行ってみよう。そして、明日の天候を考えたら絶対に樹林帯まで到達しなくてはならない。しかも、焦ったらいけない。落ち着いて、落ち着いて。
矢場ノ頭のクラック
ところどころ際どい箇所を「落ち着いて、落ち着いて」と実際に口にしながら、急ぐ。危ない橋は渡らない。遠回りでも、時間をかけてでも、安心できる斜面まで移動しては前進する。ストックを自分の下側に、ピッケルを上側に突き刺しながら歩く。危なそうなところは、どんなに面倒でも、確実にストックを深くさしこんでからそこに足を乗せるようにして進む。それをひたすら繰り返す。陽は傾く。落ち着いて急ぐ、それだけ。

後編へ続く

2012/09/23

20120922-23_利根川水系宝川ナルミズ沢(敗退)

※今回敗退記録なのでチョーつまらないです。すみません。いや、皆でワイワイ楽しかったですよ、超煮え切らなかったけど。

自分が企画して調べたものをベースにしてこの大所帯で沢へ行くというのは実は初めてだったのでちょっとだけ緊張気味だったナルミズ沢。草原をゆく天国のツメで有名なこの沢はすけろくさんのブログでも書かれている通りの素敵な沢で、皆非常に楽しみにしていたのだが、あろうことか大雨に見舞われ断念、嫌らしいアプローチだけで終了という悲劇に終わった・・・

市販の沢本では、大石沢出合に荷物をデポして遡行して、出合で幕営するというのがおすすめされている。しかし金曜夜発だったら大石沢出合よりも奥に幕営した方がいいんじゃないかとか、いやしかし大石沢より奥にこの大人数が寝られる場所があるのか?とかなんとか話をした挙句、1日目は大石沢出合よりも手前のウツボギ沢出合幕営&釣りとし、2日目にウツボギ沢出合に荷物をデポして遡行して戻ってくるという計画に落ち着いた。
1日目は超ゆるゆる。わざわざ金曜夜発にした意味もあまり無く、ダラダラなスタートとなった。

今回のメンバーはナッツさんハンさんワンさん、私の4人乗りカーと、おがわんさんいのうえさん、ヤハギさんの3人乗りカーの2台編成。本には車止めゲート(理水試験地)まで車で入れるとあるが、行ってみると矢張り入れない。ゲートより手前のコンクリの駐車場に車を停めてゴロ寝をするも、飲んだくれていたら朝になってしまった。

朝そのままほとんど眠らずに出発した朝6時前出発チームを見送りようやく就寝。夜中のうちに既に眠ってしまっていたハンさんと、朝5時過ぎから眠り始めたワンさんと私の3人はその後9時頃まで惰眠を貪り、あれやこれやしてから10時半頃ようやく重い腰を上げて出発。前夜に皆で食べた中本の激辛ラーメンがお腹で暴れて四苦八苦。
3人で出発するもワンさんは途中まで自転車・・・
左下にナルミズ沢を見下ろしながら林道をひた歩く
道はかなり悪く、しかも泥でぐちゃぐちゃになった所がどえらい臭い。そのまま沢を遡行する日であれば、沢靴のまま泥水の中に突っ込んでしまっても諦めが付くけれど、その日沢を歩く予定がないとなると躊躇するレベルの臭さ。ましてや我々は普通にアプローチシューズなので絶対に突っ込みたくない。必死に泥を避けて進む。
1箇所だけある渡渉点に到着。渡渉点だよってわざわざ札が立っているのも珍しいような・・・
少しだけ上流へ進み、その後戻ってくるようにしたら足を濡らさずに済んだ。
けれど普通にザブザブ行った方が早いかも
渡渉の後は再び踏み跡を辿って歩き、しばらくするとウツボギ沢出合に到着。実に4時間半程もかかってしまって萎え萎えモード。先発隊が完璧にタープを張って待っていてくれた。ありがたい。
ナッツさんとおがわんさんは散歩がてら枝沢の遡行へ。
お疲れ組はお昼寝開始、そして到着が遅くなった僕らはもう飲み始めるしかないでしょ、ということでツマミを作りつつチビチビ・・・
ナスを焼いてネギと鰹節と生姜をかけただけのツマミ。お醤油を回しかけてパク。
まずは外で大きめの焚火(この後雨で鎮火・・・最終的には農ポリタープの下で細々と火を守りました)
お散歩組の帰りを待って本格的に夕飯スタート。
ヤハギさんの手作りキーマカレー
皆に散々言われながら出来上がった、ワンさんのピーマンの甘辛炒め
使った調味料がカオスすぎたけど普通に美味しかった。
ナッツさんのガパオ
具沢山のネギだく味噌汁
雨は夜のうちに降り出し、朝止むのかどうかもよくわからなかったのだが、一応4時起きということにして就寝。そして翌朝から食欲旺盛なメンバーならでは、朝食はパスタでがっつりと。
完成品の写真がなかった・・・
雨は止まず・・・
6:30に最終決定をしようということで、ご飯を食べた後もなんとなくダラダラと過ごしてみたものの、雨が止むことはなく、今回は遡行は止めて帰ろうということで着地。
いや、個人的には大分迷ったんですけどね・・・如何せんアプローチに4時間以上かかったことを考えると、今日中に遡行して戻ってきて荷物回収して車まで戻るって、雨で全体的な遡行スピードが落ちるであろうことや、沢デビューなメンバーが1人居るということを考慮にいれるとなかなか難しいんじゃないかと思って。

で、折角なので最初の7mの滝まで行ってみようということに。
遡行図を見ると、この次の面白そうなポイントっていうのは大石沢の先にしかなく、その間はただの沢歩きが続く様子。この滝だけ見て終わり、もしくはこの滝で気分が乗ってきた人だけで遡行というのもアリかもねーというゆるい感じで、ほぼ空身で滝へ。
右岸から登る
その次の小滝の釜。深い
左岸で立ち往生中のハンさんw
クライムダウンもちょっと微妙かね、ということで7m滝は懸垂下降で元の場所へ戻り、そのままそそくさと幕営地に戻る。
右岸をそのまま下降してみようと魔が差し、ナッツさんドボン。
それでもやっぱり行こうかな、行きたいな、どうしようかな、と暫く私も優柔不断に悩んでいたのだが、そうこうしている内にタイムアップな感じになってしまい萎え萎えのまま撤収。ナッツさんはドボンして余りにも寒くて先に下山してしまったのだが、このまま普通に下山するのもアレだろってことで、残りの6人は渡渉点のところまで沢の下降をしてみることに。その話をちゃんと理解できていなかった私は、途中までinov8のmudclawで沢の中を歩いていたけれど流石に滑るし厳しくなってきたので途中で5.10のウォーターテニーに切り替え。しかしinov8のグリップは思ったよりもマシで少し驚いた。沢まで歩けるトレランシューズか・・・
振り返って。
途中難儀な箇所もあったものの、概ねそこまで大変なこともなかったので良かった。
ドロドロポイント。土というか水が臭い。
下山後は宝川温泉で温泉とご飯。露天風呂素晴らしかったです。
で、煮え切らないまま帰路に。と思ったら虹出た。
なんだかもうどうするんだよってくらい煮え切らない週末となったが、とりあえず夏場に気持ちよくドボンしながら楽しみたい沢なので、来夏にもう一度企画したいと思っている。しかし夏場に涼みに行く沢なのに、このアプローチの長さと雰囲気の悪さは特筆すべき点である・・・。ちゃんと遡行できればこのアプローチの悪さはあまり気にならないものなのかな・・・

また来年。。。

2012/06/17

20120616-17_山菜キャンプ in 水上エリア

有り難いという言葉の本来の意味と、普段使うアリガトウという言葉のほんの僅かな乖離を想う。

想ったところでそれはいつも堂々巡りで正解は無いし、
その乖離自体あるかどうか他人にはわからない程度の主観的なもののような気もするので、
想いを巡らせることそのものが極めて不毛である。

大抵それを想うのは、自分が有り難い状況下にあってその状況にしみじみと感謝するような時。
つまりはアリガトウと言いたくなる時なのかもしれないのだけれど、私の中では僅かにズレがある。
状況に感謝を捧げるような瞬間を多く与えられるような経験が続くと、
所謂アリガトウという言葉を使うハードルが今以上に高くなってしまうかも知れないと危惧したりもする。
そもそも私が心からのアリガトウを捧げるハードルは割と高いって自覚しているのに。

矢張りこういうのは本当に有り難くて在り難い。こんな状況下に在ることは難い。
回数重ねると麻痺しそうになるけれど麻痺してはいけない。


梅雨ど真ん中、6月の土日。
無線ルートに入ろうにも若干の不安が伴い、沢へ行こうにも増水が怖い。
元々この日、ハードな山行を組む予定もなかった私は、メジャールートで気楽に行ける奥多摩の
MYOGハイクなら雨でも別にいいだろうと思い、飲み会気分で1人参加するつもりだった。
MYOG(make your own gear)、自分のギアを手作りしている仲間との気軽な山行。
私自身はギアと呼べるようなものは作っていないしそもそもミシンもないのでMYOGerと呼べないが
欲しくても高くて買えないとか買うのがバカバカしいかなと思う物については
彼らの影響を受けてチマチマと作るようになり始めた。

自分はその程度なので、今回は「作品を拝見させていただく」つもりで参加する予定だったのだが
作品を見せ合いましょうという目的で集うのに、雨じゃ矢張り都合が悪い、
ということでイベント中止が金曜日に決まった。
まぁ雨で走れないし、明日からの土日で何か山行を決める時間の余裕もないし、
自宅で腐るしかないよねと思っていたら、流れで別の山行に吸収して貰えた。
というわけで私と、同じく吸収されたワンさんを含めた合計7人で金曜の夜から水上へ向かう。
めくるめく行き先変更、からの出発。
金曜深夜に目的地よりも手前の道路でゴロ寝を決め込む。屋根があるのに朝起きたらなんと浸水してた!
翌朝は遅めの出発、チャリは3台。あれこれチャリの調整などを現場で行なってから
雨の中を幕営地点までゆるゆると進む。山菜採りのため、今回もルートは内緒で。
★葉の色と同化しているジャンさん、タラノメ発見
★なんだか北アのタラノメよりもトゲトゲが尖っていた気がする。素手だと痛い!
今回新しく覚えた「ハリキリ」という山菜。タラノメにちょっと似ているけど額が赤い。
味はタラノメよりもアクが強めで、翌日になると美味しくなくなるらしいが当日だとかなり美味。
★ハリキリ
ひゅーんと伸びているのはトリアシショウマ。これに似ていて茎の色が緑色をしているのがヤマブキショウマ。
その他前回も採ったウドやタラノメ、コシアブラ、フキノトウなども採れた。
しかしコシアブラは今年の気候×このエリアではまだ早かった模様。小さな小さな芽がたまに
ちらほら出ている程度だった。因みに残雪はちらほら程度。もう大分溶けていた。
幕営地点到着
まずは巨大農ポリタープを張る
タープが張れたら適当に自分の居場所を整えて落ち着いて、釣り人達は釣りに出発。
竿は買ってあったがラインとかハリスとかまだ何も揃えてなかったので、私は今回竿持参せず。
というわけで釣り人をヨーコさんと共に見送り、留守番がてら山菜を洗って待機とする。
ジャンさんの毛鉤
それぞれ沢から戻ってきて調理を始める。
と、魚ではないお土産を携えて戻ってきたのはタンさん。
幕営地に持ち帰っていらした時には既に頭は落としてあったので動く様子は見られなかったけれど・・・
★シマヘビだそうです、一緒に釣りに入っていたワンさんだけが
この笑顔と動く蛇を見ることができた、いや実に嬉しそうw
スーパードライの空き缶の中はjoさんのニンニクがオリーブオイルに浸かってグツグツいってる
joさんのフィレステーキ
そして山菜の天麩羅、焚火で天麩羅は見ている方がかなりビクビクする・・・火が入りそう・・・
タンさんが手際よく調理。ありがとうございました。
タンさんが捌いてjoさんが握ったジャンさんの釣った岩魚の寿司。釣果は1匹だったので1人1貫しかなかったけれど
あるとないとでは全然違う。ジャンさんが持参してくれた1.5ヶ月熟成の行者醤油をつけて頂く
kudaくんのところの猪肉を入れた猪鍋
なんかもう全体的にブレブレだけどコシアブラを炒めてるの図
時既に21時、まだこれから豚肉500gと行者ニンニクの炒め物を作る、、、けれど食べきったw
さっき鷹の爪と麺つゆで炒めたコシアブラをご飯に混ぜてコシアブラご飯の出来上がり
寝落ちしていた人も、食べきる直前に起きてくれたので、きちんと全員で食べることができた
さらに、先程のシマヘビを捌いて食すw
17時台から始まった宴は22時半頃まで続いた。
雨も止み、星も見えていたので安心していたが、明け方4時半頃より再び雨。
油断してあれこれ濡らした人が居たり居なかったり。朝も9時頃まで雨が降っていたけれど
予報通り9時にはピタリと止んで青空が広がった。
朝ご飯にjoさんの山菜パスタ。残っている山菜をあれこれ突っ込む
更に山菜チャーハン
これがまた美味しかったこと
と、ヨーコさんのテントにぬらぬらしたナメクジ跡が。よくよく見たらこんな巨大なナメクジ!
朝食が終わってのんびりした後、沢割をしてそれぞれ出発。
沢靴を持ってきておきながら使わずに持ち帰るのも悔しいので、私も釣師を追って沢を歩くことに。
皆には釣りを楽しんできて頂きたい、でも自分も沢行っておきたい、
だったら釣りビギナーのワンさんとセットで私がついて行って、1ヶ所だけ犠牲にするのが良いだろうと勝手に判断。
初日はタンさん×ワンさんの組み合わせだったが、今日はナリさん×ワンさんの組み合わせ。
ココへ私も乗っかることにした。
歩いている内にどんどん晴れてきた。気持ち良い!
この沢も今朝までの雨で増水したようで流れも速く濁流である。
沢に降りてすぐ、深くて流れの速いところをグラリと流されかけながらの渡渉でスタート、
いきなり腰まで浸かって何だか色々とどうでも良くなる。
しばらく歩きやすい場所を歩いたと思ったらうっかりまた腰まで浸かったりなどしつつ。
一応スマホを防水ポーチに入れる。カメラ用のジップロックが無いのでヒヤヒヤしつつ。
ナリさんから指導を受けるも、ワンさんのラインは絡まり続ける・・・
そしてしなやかに伸びるナリさんのライン・・・しかし釣れず
そういえば今回の釣師は全員フライだったんだけれど、
ふと家に帰ってきてから思い出したのがこのCD、
The Blue Pearl Bohuslan Big Band plays Lars Jansson
1曲目のタイトルがFlyfisherっていう。自分の居たバンドでも演奏したことがある。
YouTubeにはUPされていなかったので、上のはアマゾンのリンク。
私も実はMDでしか持ってない気がするので久しく聴いていないけれど、
これってフライフィッシングをイメージして作られた曲なんだろうか。
そう言われてみればそんな風にも聞こえてくる。渓流釣りの繊細且つダイナミックなイメージが重なる。
何も釣れずに戻ってくる道すがら、朝食の頃に入ってきたオジサマ釣師さんと再び出くわして談笑。
餌釣師だった彼らは大物を何匹も釣ったようで満足気だった。
鼻高々ついでにネマガリを一握り分けてくれたのでお礼を言って別れ、幕に戻ってくると
更に大量のネマガリがあった。どうやらいろんなオジサマ達が、留守番をしていたヨーコさんのためにたくさん分けてくれた模様。最後の収穫祭を粛々と行うことに!
ネマガリたくさん(この下には乾かし途中の濡れタバコが敷いてあるんだけども)
手の届く場所にあったホオノキの葉があまりにも大きかったので、使うかわからないけどお皿用に数枚とってきた。
ネマガリとコンビーフの炒め物
ネマガリは笹の茎に刺して焼く(このあとはもう面倒臭いということで焚火にそのまま突っ込んで焼いたw)
そしてまたまたジャンさんが岩魚を釣ってきてくれたので刺身にして頂く!
シメは冷麺。ナリさん盛り付け中
おいしゅうございました◎
ひとりしきり食べたところで特に出発時刻を決めた訳でもないけれどゆるやかに全てが終息。そして撤収。
雨もぱらついたけれどなんとか最後まで天気はもちこたえた
今季私にとって2回目の山菜で、しかも1ヶ月と間をあけなかったということもあり、
かなり山菜の記憶が定着したような気がする。
来年まで覚えていられるのかはなんとも言えないところだけれど、1回しか行かないまま
シーズンを終えるのではなく、2回行って自分の目で見ることができた意義は大きい。

特に感じたのは、香りで確信が持てるようになったなという点。
食べたことがないものを採って香りを嗅いで、「これは香りを嗅げばわかるから」って言われても
初回は正直よくわからなかった。
確かに山菜ぽい香りはするけれど、なんだかタダの香りの強い草のようにも思える・・・・
しかし一度食べたものだと、同じ香りを嗅いでいる筈なのに感じ方が全然違う。
特にコシアブラ。これだっけ?と採ってみて香りを嗅ぐと、食べた時に感じた風味の記憶と繋がって
すぐに「これはコシアブラに間違いない」という確信に変わる。これは2度目以降でないと分からないと思う。もうそろそろこの辺りでは山菜のシーズンも終わるけれど、また来季以降も山菜を味わいたいものだ。覚えていられるかなぁ。

尚、写真の説明の最初に★がついているものはワンさんが撮影したものです。

janさんによる記録はこちら
高速乗る前に手作り餃子でシメました。てかよく食べるよね。