ところで、K氏は2日目の沢のトラバースで滑落しそうになった時に実は足を捻っており、鎮痛剤を飲みながら歩いていた。私は私で、前をゆくU氏の足場が崩れ、割と大きな落石を左足首にくらっていた。この日の夜、眠っている間に足を動かさずにいたら、朝はびっこをひきながらしか歩けず「いやこれはやばいかもしれない、登れるのか?」と焦った。鎮痛剤を飲んで動き始めたらまぁ問題なく動けたので良かったけれど、後でK氏にこの話をしたら「自分も実は朝足首動かなさすぎてびっこひいてました・・・」とのことだった。3人中2人が足のトラブルとはこれ如何に。でも、怪我の直後といい翌朝といい、沢で足が冷やされていると大分痛みは和らぐような気がする。(因みに足はもう全然平気です。案外骨って折れないものだね。)
上段に集まって朝食、とっくに夜は明けている |
ピーマンと玉ねぎが残っていて、カルパスと炒めてトマトペーストを入れたらナポリタンの具みたいなものができた。カレーメシのトッピングとして、チーズと一緒に乗せまくる(カレーメシもはや見えず)。この後さらにハヤシメシも食らう。結局1度に2食 |
暫くすると彼等が登ってきてこう言った。「今日は停滞ですか・・・?」いや?いやいや行きますよ!全然天気悪くないし停滞なわけないじゃない?でもまぁ普通に考えて9時半過ぎてダラダラしてたら停滞かなって思うよな。寒いので、沢に日が差してからじゃないと嫌だよねぇって話していたらなんだかんだ遅くなってしまっただけなのだけれど。
すぐ先の滝に取りついた彼等だったが、何度見ても一向に進んでいない。その滝そんなに難しそうに見えないのになんでそんなに手古摺っているのだろう?と思って観察しているとロープを出し始めた。えええ!?そんなに?と思いながら見守ること暫し、突破してそのまた次の滝からも全く進む様子がない。昨日彼等に聞いたところによると、彼等と我々とで進んだ距離と時間にほとんど差がなく、おそらく似たようなレベルのようだったので、きっと我々もあの滝をそんなにスルスル登れないんだろうなぁと思った。我々の出発は10時・・・実際自分らもなかなかこの滝を突破できず、一本目を終えるのに20分くらいかかった。先が思いやられる。
ぬめっていて中々すんなりいけない |
私がトップで登っている(たまにはね) |
午前中はかろうじて日が差した |
ロープの時は私は基本的にトップは行かない(行けないw)。 |
ロープ出してるけどこれどこだろう? |
なんだかうつむいてしょんぼりしているように見える私w辛そう(そこまででもないけど) |
「K君!ここにハーケンがある」
ガスの奥に、この岩場の終わりがようやく見えたと思ったら結構遠く、しかも次のハーケンがどこに打たれているのかはよく見えなかった。いやぁ、これ今あっちとこっちで全員登っちゃってるし、U氏が詰んでいたら結構やばいね、とかなんとか言いながら、岩場の向こうのU氏に向かってK氏が声を掛ける。幸いU氏は草付き側を突破し上に回り込めたので、しばらくしてロープが垂れてきた。命拾いした。
ゴボウで大丈夫です!とK氏が言ったのでゴボウで登ることに。個人的にはゴボウじゃなくて普通に確保してほしい!!と思ったりもしたけれどとりあえず大丈夫だった。今回アッセンダーは持たなくて大丈夫と言われて持参しなかったので、U氏のタイブロックを借りて登る。 |
登山道に出るところでU氏が先頭をかわってくれた |
お疲れさまでしたーーー! |
最後の急登でちょいちょいお日様が見え隠れしていたので、ひょっとして山頂でワンチャンあるんじゃ・・・?と思っていたが真っ白で何も見えず残念。。。と思いきや、雲がちょっと薄くない・・・?薄くなってきてない・・・・?
あ、稜線見える・・・・・・見える!
まさかここまで晴れると思わなかったのだけれど、山頂に来るとガスが切れたり、夕方になったらガスが消えたり、よくあることと言えばまぁよくあることだ。歩みが遅くて登頂が遅くなってしまったのも予定外とかじゃなくて予定調和なんですよ。ええ。
山頂には結局誰もやって来ず、3人占めだった。ハーネスやら何やらの装備解除とカロリー補給と撮影会で1時間も山頂に長居してしまい、16時半を過ぎてようやく黒戸尾根方面へ向かう。元々は尾白川本谷を下降する予定だったが、2日目の終わりくらいにはもうほぼその計画は諦めて黒戸尾根下山になるだろうねと話していた。
幕を張らずに横になると、木々の間から星がこぼれた。
K氏がキラキラした動画にまとめてくれたので見てね。↓(序盤の私のへっぴり腰が酷いけど終始こんなだったわけではないです・・・w)
長く山の中に入っていると段々日常が逆転してくるよねーという話をしていたけれど今回もちょっとそれに近いものがあった。山が日常みたいになりかけた時に稜線に出て、夢みたいな時間は七丈小屋のあたりでしゃぼんのようにぱちんと消えた。下山してからも暫くその夢のような時間の余韻は続いていて、写真を見たり動画を見たりすると、確かにあれは現実だったんだと思いはするものの、どこか微妙に信じられず、ふわふわしたままもう何日も過ぎてしまった。
こんなひりひりするうようなことばっかりやってると身が持たないけど、たまにやるとやっぱりいいよね!とK氏が言っていたのが忘れられない。いやほんとそれ。でも、身が持たないなんて言っても、締めるところ締めてそれなりに確保もしたし、これまでに私が経験してきた泣きそうなくらい危ない山行と比べたら安全マージンは取っている方だったと思う。矢張り確保大事。とはいえ、ある程度の勇気や思い切りも必要だし、それがないようだと全然進めなくなってしまうのだけれど、本当に失敗が許されないところでは確実さを優先すべきだし、その絶妙なバランスを探りつつ個人としてもパーティーとしても進化しながら沢を詰め上がっていくのは楽しくてとても幸せだ。どんどん色々なことがぴたっと嵌っていく。だからこそ、詰め上がりが美しく輝かしく喜びに満ち溢れたものになるのだろう。
初めて組んだ3人で、私が一番実力に欠けていたとは思うが、それでも怖い目にたくさん遭いながらなんとかこれまで生き延びてきた者として、それなりに機能できたかなぁと思っている。バランスの良い楽しいパーティーだったな。来年もまた是非このメンバーでどこかの沢へ入りたい、そしてその頃までにはもう少し登攀力を上げておきたい。
2人の仲間に最大の感謝を。