優子さん、ありがとう。私はまたあなたとレースで闘いたい。
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青根キャンプ場に前乗りして本番に臨むいつものスタイルで今年も参戦。もうかれこれ5年連続出場となるキタタン、タイム表は6:15, 6:25, 6:30, 6:35, 6:45と5パターンを揃えて挑む。昨年6時間34分でゴールしていたので、その時の区間タイムをもとに組んだ。今年は昨年より走れていない気がするし、今年の5月の奥久慈トレイルも昨年より30分くらい遅かったから、強気な予想ばかりではなく弱気なタイムも計算しておくことにした。
ブリーフィングの様子。楽しかったw |
初めてブリーフィングに出席したのだが、そこで早速優子さんの姿を見付けて声を掛ける。去年のキタタンで話して以来だったので、向こうは私のことは覚えていない様子だったけれど、いつも追いつかないけれど今回は少しでも追いかけられるように頑張りますと伝えた。優子さんは今回は全然ダメだから〜なんて話していたけれど、きっとそんなことないはず・・・。試験前に全然勉強してないよ〜と言うクラスメイトみたいな感じなんじゃないのか、なんて話しながら仲間と乾杯。
ビールとかノンアルコールビールとかお茶とかで乾杯。 お茶で乾杯している彼女はサブ⒊5の走力を持つキタタンビギナー。結果はいかに。 |
レース当日。明け方にはかなりの降雨があり、雨レースになるのかとヒヤヒヤさせられたが、朝になると雨は止んだ。キタタンビギナーであるチームメイトのまりこさんはマラソンで3.5の走力を持ち、過日の奥三河パワートレイルも完走している強いランナーだ。でもキタタンはキタタン、私は負けるわけにはいかない。けれど私は勝てる根拠となるような練習を積んでいる訳でもなく自信も全く無かった。競おうと思うと今回は優子さんとかまりこさんとか、相手が二人いるというだけでもう私には情報量が多すぎてパンクしそうだったので、とにかく前回の自分よりも少しでも速くゴールできればそれでいい、そう思ってスタートを切った。毎度のことながらお腹は痛い。。。
昨年も完走している私とタケさん、そしてフルマラソンのタイムが良いまりこさん、3人は揃いも揃ってウェーブ前半の6:30スタート。毎度ながらきつい舗装路の登りをのろのろと走り、斜度のきつくなったあたりで優子さんが視界に入った。ついていけるところまでついていきたい、そう思って背中を追いかけたけれどジワジワとその差は広がっていく。嗚呼、こんなに急なところも彼女は走っていくんだ。この差なんだ。圧倒的な強さを見せつけられ、そうこうしている内にも彼女は見えなくなってしまった。このまま一度も会えずに終わってしまうのだろうなぁ、そんなことを思いながら、早くも走れなくなった私は歩きに切り替えた。
一旦トレイルに入って渋滞し、渋滞したまま下りきると再び舗装路だ。舗装路終盤、鐘撞山の登りに差し掛かる一歩手前のトンネルの登り坂で私が止まりかけていると、脚の綺麗なお姐さんが何か声を掛けてくれたので必死になってついていった。なんとかそのトンネルを走りきることができたのは彼女のお陰。このトンネルを走って抜けたのは始めてかもしれない。引っ張って貰って本当にありがとうとお礼を言い、辿り着いた給水所で水を補給すると、いよいよ鐘撞山を目指してトレイルに突入した。因みに今回は気温高めの予報が出ていたのだけれど、実際は割と気温も低めで風もあり、条件は悪くなかったと思う。
以前ブログにも使った画像なので、左上のキナバル山云々というのは今年は関係ないです |
鐘撞山の登りの斜面は壁みたいに立っていて、毎回何事かと思わされるのだけれど、今回も例に漏れず何事かと思わずにはいられなかった。そして尾根に出てもまだまだ登らされてようやく県境尾根分岐へ。そこから一気に下って神ノ川ヒュッテの第1CP。鐘撞山から県境尾根分岐へあがる途中あたりに落石による怪我人がいたことや、神ノ川ヒュッテに向かう下りでかなり詰まっていたことが理由で大分タイムが遅くなった感じがしていたのだが、蓋を開けてみると所要時間3時間、去年とほぼ同じペースだった。CPに着くと、応援のために一緒に前泊までしてくれているKMDの私設エイドが、美味しいスイカとコーラで出迎えてくれた。また冷たいものの飲み過ぎ食べ過ぎでお腹壊すかなぁと思いながらも、ついついガブガブバクバクと飲み食いしてしまう。20分ほど前にタケさんが来た、まりこさんはまだ、女子は15番目くらいと聞かされ、あまり長居できるほどの時間的余裕もないので、ひとしきり補給をするとCPを出発した。この時点ですでに前に女子は14人もいるのか・・・
400m以上登って日陰沢源頭に着くと、今度は林道のダラダラした下りに差し掛かる。日陰沢源頭までの登りで、自分のいたパックの先頭の人が自分のペースよりもかなり遅かったのだが、なかなか抜かせてもらえなくて、どうにか抜くことができた頃にはもう源頭間近だった。もう少し、ここは登りでタイムを稼ぎたかったな。。。
そしてようやく飛び出した林道セクション。それなりに走り、ここでは女子を一人抜いた。けれども昨年のように脚がどんどん前に出ていく感じがない。ギアが一段上に入らない。ギアを入れてもすぐに元に戻ってしまってキープができないのだ。ああこれが練習不足の結果なのか。時刻と標高を見比べて、これは第二CPに予定通りには辿り着けないなぁとか考えながらとりあえず進んでゆくのだけれど、6時間35分にゴールするための第二CP到着目標タイムから3分経っても5分経っても7分経っても、一向に第二CPが現れない。一体去年よりどれだけ遅いんだ!?そうこうしている内にようやく現れた第二CP、時計をみると去年より10分も遅かった。そんなにか。そんなになのか。
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公式エイドでクリームパンとプチトマト、OS-1を飲んで少し進むと再びKMD私設エイドが現れた。10分も遅い、ダメだー、何がそんなに遅いんだろうー、などとひとしきり話を聞いてもらって再出発。頑張って!と激励され、姫次の登りは割と得意なので頑張りますと返事をしてエイドを後にした。普通に考えて10分をこの後巻き返すのは難しいと思ったけれど、PBを諦めたら今度は一体何を目標に進めばいいのか。とりあえず少しでも早くゴールすること、それだけが目下の目標となった。
さあ泣いても笑っても最後のひと山。登り始めると案の定調子は上がってきて、私の脚が私自身に対して止まろうよと誘いをかけることが一切なくなった。どんどん行けよ行けよと呼吸を煽る。人がトレイルのわきによけて私に道を譲る。女の人に追いつかないかなぁと思いながら定期的に前方に目線を送っていると、ようやくぼんやりと女性らしいシルエットが見えてきた。その人にジワジワと近付いてきて、その後ろ姿が優子さんだとわかると、嬉しいのと、何故か恐ろしいのと、色々な感情が渦巻くまま後ろに張り付いた。でも自分がすぐ後ろにいることがわかったらきっとまた引き離されてしまうのではないかと思って、暫くの間は声もかけずに着いていくことにした。黙ったまま引っ張ってもらうのが一番体力温存になりそうな気がしたし、そもそも彼女を打ちのめすほど圧倒的な速さでブチ抜けるほどの余力もない。目標としていた人は目の前にいる。
一緒になって進んでいる間、彼女が私に気付いていたのかどうかはわからないけれど、彼女の調子はどんどんあがっていった。彼女が人を抜き、私と彼女の間に人が入り込んだことも何度もあったけれど、彼女が抜いた人は私も抜くという作業をひたすら繰り返した。その作業の間に女子も何人か抜いた。抜いた女子の中には、鐘撞山手前のトンネルで私を引いてくれたお姐さんもいた。そう、ここで優子さんから離れるわけにはいかないのだ。しかし彼女はほんの僅かな下りでもササッと走っていくし、木段のようなところでの足さばきがとても上手いので、ちょっとの気の緩みですぐに私は引き離される。いよいよ本当にダメかと思うほど引き離されたこともあったけれど、それでもどうにか食らいついていると、姫次の手前の登りでいよいよ自分のペースが彼女のペースを上回る瞬間がきた。それでも後ろにつくべきか、それとも一気に抜くべきか、私の一瞬の迷いを突いて彼女が声をかけてきた。
具体的になんと言われたかは正直覚えていない。けれど、いいねーどんどん行っちゃって!ってそんなようなことを明るい声で言われたような気がする。私が同じ立場だったら、そんな風に言えるだろうか。自分のことを抜き去って順位をあげようとしている相手がいたとして、その人に対してそんな愛に溢れた言葉を掛けられるのだろうか。そう思ったら、メラメラと闘志を燃やして後ろにひっついていた自分が突然恥ずかしくなった。優子さんは強い。なんだってそうだ、本当に強い人は優しいのだ。私は弱いからこういう闘い方しか出来ないけれど、本当に強い上位層の人達がお互いに仲良く会話をしたり称え合ったりしているのってきっとこういうことなんだ。次のレースでは勝つとか、次は負けるかもしれないとかいう相手と仲良くするなんて、表面的なものなんじゃないのかなんて思っていたけれど、きっと本当はそうじゃないんだろうな。
姫次に到着し、私が施設エイドの方々から1杯お水を飲ませて貰っている間に、優子さんは補給もせず私を抜かして走っていった。折角登りで抜いたのに、水の補給で抜かれるなんて勿体無い(しかも水はまだ十分持っていて、冷たいのを飲みたいというだけで止まって補給しただけなのに)!そう思ってすぐに追いかけて追いつくと、彼女は私に「行けるなら抜いて行ってね」というような声を掛けてくれた。それは決して、後ろから追われて鬱陶しいから先に行けというようなぶっきらぼうな言い方でなくて、彼女が私を選手としてリスペクトした上で前を譲るよという言い方だったように思う。
少しだけ後ろについたまま走っていたけれど、「もう少し行ってみます」と声を掛けて、いよいよ優子さんを抜かせてもらうことにした。うん、行きなー!という声がして、私はもう後には引けない、引かないと覚悟を決めた。一気に転げ落ちるように、集中してトレイルを進む。木段でテンポを挫かれそうになると宙空に浮かんでコンマ何秒というような時間調整をしながら次に足を置くポジションを目で計算する。キロ4分半を切るぐらいのスピードでひとしきり進むとトレイルが平坦になり、少し速度が落ちたところで後ろを見るともうそこには優子さんはおろか誰も居なかった。因みに姫次の時点で、私より先を走っている女子とは8分くらい開いていると聞いていたので抜ける気はしなかったけれど、とにかくゴールまで優子さんに抜き返されないようにとそれだけを目標に頑張ることにした。これで抜き返されていたのでは、折角前を譲ってくれた彼女に対して申し訳ないような気がした。
平丸分岐からは毎年苦戦させられる急な下りに切り替わり、思うように走れなくなる。ここからラストの5キロ、もう脚も疲れてきて大したペースで走れず、ここを優子さんが普通に走ってきたらきっと抜かれるんだろうなぁと思いながらも、自分に出来る最大限のペースで着実に進むことに集中した。毎年熱中症が続出するセクションなだけに、必要以上に水を頻繁に補給しながら進むこと暫し、ようやく舗装路に出て水を頭からかけてもらうとそのままゴールへまっしぐら。自分にとって満足のいくレースだったかというとそうではないけれど、またひとつ素敵なレースの記憶が増えた。記録は6時間40分16秒、総合10位、年代別6位。第二CPで昨年より10分遅くなっていたタイムをゴールまでに4分巻き返し、昨年より5分38秒遅れでゴール。優子さんは7位だった。
39歳以下の部表彰。年齢の幅が広いんですけど・・・ |
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キタタンは、NESチャンピオンシップという全4戦のシリーズ戦の最終戦でもあり、シリーズでエントリーしていた友人は家庭の事情で今回DNSだった。これまでの3戦を全て闘い抜いてきて、最終戦に向けて私なんかよりも余程練習を積み重ねていたのにDNSというのは、聞いているだけでも辛かった。私はこうしていつもレースにエントリーして、当日まで怪我や事故、やむを得ない事情でのDNSもなく走らせて貰えて、完走できるということはそれだけでも本当に有難いし貴重なことだ。この環境と境遇がいつまで続くのかはわからないけれど、今与えられている状況には心から感謝したい。そしていつも表彰台に上がるより先に必ずビールを飲んでしまう、格好良くて愉快で素敵な優子さん、まだまだ未熟な私を受け止めてくれて本当にありがとう。次に優子さんと走るのはおそらくハセツネだ、タイム差は1時間以上あるけれど、少しでも近付けるように秋までまた頑張ろう。
またこの季節ですね。
返信削除またまた、興奮して、読ませていただきました。
昨年から、山仲間が参戦しているので、より身近に感じて拝読しました。
やっぱり、わくわくしながら、追い抜くところを読んだけど、つよいね。冷静だけど、つよいわ。やすよさん。
でね、試しに、この間、陣馬から高尾、トレランシューズを買い換えた機会に、いつもとは違うトレラン装備笑で、ぼちぼち走ってみたら、遅いくせにね、ランニング大嫌いなはずなのに、興奮するね。爆走したい、なんてね。
まあ、怪我するのが落ちだから、この辺にしておきますが、いつもとはぜんぜん違うコースタイムで着いてしまい、これは違う世界だなと、改めて思った。
たまに、楽しむのもいいかな。
真剣なやすよさんたちに失礼にならない程度に。
また、がんばってください。
いつもありがとうございます!Facebookなどでつながっている友人は、ブログを読んでもだいたいFacebookの方にコメントするので、こっちにコメントを残してくださる方は貴重だしとてもありがたいです。Facebookは流れていっちゃうけど、こっちはずっとここに残りますからね〜
削除トレラン、楽しいですよね!私は元々山から入ってトレランを始めた人なので、そういうパターンではじめる方の気持ちは理解できるつもりです!私がトレランしはじめた頃に、山からトレランに入った先輩から言われた言葉ですが「トレランを嗜んでいると、いざという時どこからどこまでどれくらいの時間で救助を呼びに下山できるのか、感覚的に理解できるというのは良い」と。今でも響いている言葉ですね。人に迷惑をかけてまで爆走していくような輩には絶対になりたくないし、そういう人はどんどん成敗すべきだと思いますが、いつかトレランで人の助けになるようなことがあればいいなぁと思います。
是非また走ってみてください!
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