2012/09/08

20120905-11_恍惚のロングトリップ(4日目:高天原~温泉沢下降~立石)

初めての小屋泊でその寝心地の良さに大爆睡をかますも、明け方に何か激しい音がしてつい目を覚ます。
ギュルルルルルルルルキュウゥゥゥゥゥ

私の左側に眠っていたナッツさんのお腹の音だ。小屋の2階全部に響き渡るほどの大きな音にこちらも若干動揺する。どうも夜中も何度もトイレと寝床を往復していたようで、眠れたのか眠れなかったのか定かではないがどうしようもなく疲れているように見える。私が大丈夫かと声を掛けてみるも、聞こえたのか聞こえなかったのかよくわからないが彼は返事をすることもなくお腹を抱えて転がるようにして下階へと消えていった。時間はまだ3時台前半くらいだったか。私は朦朧としながら、もう少し眠っておかなくてはと思い、彼が寝床に戻ってくるのを待たずして再び眠りに落ちたが、その僅かな間に見た夢でナッツさんが登場してしまい、イマイチ眠った気がしなかった。ナッツさんの腹痛との戦いをよそに、私の右の布団ではタンさんは目を覚ますこともなく眠り続けていた。

■9月8日(土)曇、午後に一時激しい雨、のち小雨
6:37 高天原山荘
↓ - 0:17
6:54 高天原温泉
↓ - 4:56(滝の大高巻き・・・10m/30m懸垂下降各1回と藪漕ぎ)
11:50 1780m付近出合
↓ - 0:35
12:25 立石
本日もお約束のグレフルからスタートw
お腹がゆるかろうと、とりあえずこの重い塊はコンスタントに減らしていかなくては。ということでナッツさん自ら、日課のようにグレフルをカットして振る舞う。勿論ナッツさんも食う・・・お腹平気ですか?

本日は、昨夜入った温泉のところまで一旦出て、その後温泉の脇を流れる温泉沢を下降するルートで、いわば今回のルートの一番の核心ともいえる。温泉沢を下降してすぐに岩苔小谷との出合を経て立石まで抜けるとそこは上ノ廊下である。
沢登り的にみる上ノ廊下は遡行グレード4級といわれる。しかし我々は立石から入って薬師峠に抜けるだけ。本来の上ノ廊下遡行は、今回我々が通ったルートよりもずっとずっと困難なものと思われる。

とりあえず問題は沢の下降だ。そもそも私は沢を下降ルートとして使ったこともいまだかつて無いので、沢を下降するということ自体結構ドキドキだった。滝とかあったら大丈夫なのかな、懸垂しちゃえば早いかな、とか何とか・・・
温泉到着。右側に見えているトタンの小屋が女性用の温泉。
温泉の場所を過ぎてほんの数十分進んだところで後方からナッツさんがホイッスルを吹く音。振り返ると斜面側を指さして合図している。何か居るのかな?でもそんなことでホイッスル鳴らすかな?俺こっち行くって意味かな?でも何故?

私が「タンさん呼び戻した方がいい?」というニュアンスの合図を送ると、ウンウンとナッツさんが頷く。間違った解釈でタンさんを呼び止め、再度後ろを振り返ってみると、ナッツさんはウェストバッグを外している。ああ、キジか。お腹をさするジェスチャーを改めて送ってみると「ソウソウ!」という合図が返ってきた。引き返さなくて良かったw とりあえずタンさんと私は出合まで行って待つことにする。
岩苔小谷出合
さあここからが本当の核心。岩苔小谷出合から立石までの間の地形図を見ると、岩のマークが並んでいる場所が確認できる。確実にゴルジュはある。有名な60m大滝というのもある。問題はどうやって突破するかだ。
幕営できそうな場所も。
ナッツさん調べによると大滝以外にも10m滝が何本かと2m滝が何本かあるようだった。そして登場した2m滝とその先に続く60mの滝、と思われるもの。両方一緒に巻けそう?しかし調べた資料によると、2m滝と大滝とは別々に巻いている、、、けれど資料も大分古いので、その後色々変わっている可能性もある。

手前の2m滝は左岸から巻けそうだったが、おそらく次の滝が巻けない。右岸から行けば両方巻ける可能性がある。とりあえず歩けそうな巻き道の取り付きを見つけて突っ込んでみることに。
右側の白い岩のあたりを右上に向かって藪に突っ込む
エキサイティングな藪漕ぎがとうとう始まる・・・!
怖い?ちょっと怖い。藪は怖くないけれど、切れ落ちた藪を下降するのとかは流石に怖い。けれど全体的に言えば楽しい!手で掻き分けないと進めないし、進んだところでそれが正しいかどうかなんて誰も答えてくれない。進行方向むかって左に滝があるのだと想定しながら藪を掻き分ける。
下方のテラスのようなところへ下降したタンさんが、やっぱりもっと上巻かないとダメだといって上がってくる。
ナッツさんと私もそこまで下降しなければならないものと思い、ナッツさんは私用にロープを出してくれたが
結局下降する必要がなくなってまた仕舞う羽目に。
ナッツさんと私の距離わずか2、3mとかなのに、もう藪でよく見えないw
タンさんがゴリゴリと藪漕ぎのトップを行き、間に私、後ろにナッツさんという順番で進んでいく。タンさんのルート探索を待つ間、そのへんにある実を見つけてはナッツさんと一緒につまむ。まずかったり酸っぱかったり美味しかったり。で、これはやたらと美味しかったのでタンさんに聞いてみたらコケモモの実らしかった。でもこれ本当にコケモモなのか?コケモモの一種?まぁとにかく美味しかったのでバクバク食べた。なんか小さな赤い実をつまんで藪の中でもぞもぞ食べてるとかサルみたいだなぁ。
今まで食べてきた実の中で一番美味しかった気がする
藪の合間にガレた谷筋がある。大したガレではなく、このまま乗り越えていけたのでサクサクと突破。
藪の中でGPSが入るのか、はたまたGPSが示す位置を安易に信じて良いのか等と試行錯誤を続けたが、どうやらもう大滝は巻き終わっているようだし、更に先の滝もいくつか越えているかもしれない、ということになり、いよいよ下降できそうなルートを見定めて沢へ降りることに。失敗すれば断崖絶壁の上に出てしまうかもしれない。登り返すことになりませんように、と祈りながら進む。
水の流れるズルズルの泥斜面を、フキの茎を束ねて鷲掴みにしながら滑り降りる
谷になっている場所をズルズルと下降していくと、割とすんなり岩苔小谷の河原に出た。GPSに落とし込んだ滝のポイントについて確認してみると、もういくつもの滝を高巻いてしまったようだった。ラッキー!でも大滝見たかったね、とか言いながらとりあえず小休止。
高巻き失敗したらこの断崖絶壁の上に出てきてしまったかもしれない。
この高さ、さすがに30mロープ2本では長さが足りない。
一番下の2m滝から始まって、大滝、5m、2m、10mと全て高巻いてしまったようだ
しかしこの先まだ10mの滝があるのだ(上の写真、iPhoneの画面上部にギリギリ映りこんでいるもの)。そこはちゃんと巻けるんだろうか・・・っていうかもう降りた直後からすぐ巻き。早く普通に沢を歩きたいのにまた藪・・・(いや、藪も好きだけどさ)。
右岸から巻く
あれー?すぐに下降できるっぽいけどコレ下降けっこう危なくね?
というわけで懸垂下降。今回は斜めにトラバースするように進んでいく。タンさんまさかのゴボウで下降。我々は8環でいきます。
斜め、結構怖い

しかしそうこうしている内にまた次の滝が現れ、これは左岸から巻く。上方から下を覗きこむと、かなり巨大な滝であるように見える。滝の落ち口の先のすぐ先には出合が見えたが、そこにはなにやら赤いペンキで文字が書かれているのも見える。右俣にあたる方の沢から我々は歩いてきたけれど、ペンキの文字は左俣の方に「←高天原」と示している。左・・・?えっこれ全部一気に巻いて別の沢筋を来れば良かったってこと??
滝でかい
そんなことを言っていても始まらないのでとりあえず自分達がその出合まで降りることだけを考える。そして再び懸垂下降。30m2本を連結して30mの下降を試みるが、下まで一気に行けるか、さもなくば途中に見えているテラスでもう1ピッチか。
滝の様子をズームアップ。水量も多くて激しい。
タンさんが最初に下降。キンクしやすいロープが藪に絡まりまくりで、なかなかうまく下降できない。
タンさんを撮るナッツさん、とそれを撮る私。
結局1ピッチで降りられたのでそのまま河原に到着。続いてナッツさんが下降。
いってらっしゃーい
で、問題の矢印がこれ。どうなってたんだかね
これでもう大丈夫かな。きっと核心は終わったはず。
簡単なへつり程度であとは普通に沢歩き。水量もそれほど多くなかった
そしてとうとう上ノ廊下が現れる!規模が違う!どっぎゃーん!
大分水量の少ない時期。多い時は岩の白くなっているあたりまで水がきているのだとか。
この出合付近は、管理人はいないもののある程度公式のテン場として地図にも記載されていたらしく、かなり綺麗に整地されたテントサイトがいくつかあった。そのなかの1フロアー?に3張立てて、更に農ポリタープを宴会用に設営。まだ時間も早かったし、もう少し先まで進んでみてもいいのでは?と提案もしたが、進んだところで結果があまり変わらないという点、そしてここが非常に良いテン場でありこの先テン場を探してもここほどの場所はないだろうという点などから、結局今夜の宿はここに決まった。

今日農ポリタープ要るかなぁ?立てないでもいいかな?なんて言いながらも一応立ててみたが、この直後にバケツをひっくり返したような豪雨の襲来。先に突っ込まなくて良かった。30分くらいで止んだだろうか、それにしても酷い雨だった。酷い雨がおさまってからもしばらく、小雨のようなものが降ったり止んだりしていた。山の天気は本当にわからない。そしてタンさんの直感的な幕営地の決断とその正解具合にあんぐり。この場所に幕張って正解だった。
今回は真ん中にトレッキングポールを立ててみた。内側の空間が広がってなかなか快適。
既に4日目。4泊5日に1日足せば予定通りのルートを歩くことができるし、全員そうすることができたから、もう5泊6日にしてしまおう、ということはこの頃既に3人の中でコンセンサスがとれていたが、いよいよ1日足したぐらいではどうにもならないことが判ってきた。2日足しても大丈夫なのはタンさんと私、ナッツさんは流石に2日足すのは難しいという。選択肢はざっくりとこれくらいあって、
1:折立に抜ける一番のヘタレルート(富山から都内に帰らねばならず遠い)
2:雲ノ平を抜けて新穂高に降りるロングルート
3:2日延ばして元の計画通り、黒部源流を詰めて新穂高に降りる

この夜のうちにナッツさんは2番を選んでいたがタンさんは「薬師峠から雲ノ平に向かうルートは嫌いだから行きたくない」と言う。選択肢をいくつも抱えたまま私は眠りに落ちる。どのルートを行くか、決めるリミットは薬師峠だ。最初に双六と三俣の稜線に上がった時は電波が入らなくて下界と連絡がとれなかったけれど、薬師峠で連絡をとれば問題ないだろう。計画では9月9日が下山予定日になっていた。

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