2013/08/20

20130817-21_神通川水系金木戸川蓮華谷(4日目:九郎右衛門谷出合〜蓮華谷〜双六南峰)

明け方までかなり雨が降っていた。雨の詰めになるのかとヒヤヒヤしていたが、出発する頃には雨も止んでくれてほっと一安心。とはいえ曇天であまり気乗りのしない出発となった。蓮華谷の滝、そんなに厄介でなければいいのだけれども。出発は8時少し前。
突っ込んでみるも、この先突破ならず結局左側を巻く。
ここからが問題。
2本の滝を越えると、その次に大きな滝があった。これは巻くより他にない。左岸のところ(写真右手)を攀じ登ってみることにしたが、下から見ていたよりも相当悪場である。気付いたところで懸垂で戻るにしても適当な支点がない。進むしかない。
ここから上へフリーで登っていくワンさんを下から見守るだけの簡単なお仕事。
見ているだけで震える・・・
危うい岩場を通過したワンさんが、私にロープを投げ下ろしてくれた。

2日目、3日目と、際どい徒渉では8環を使ってフローティングロープで確保をしたり、スリングでお互いを結んでみたり、あれこれ策を講じていたものの、まさかここへ来てこのフローティングロープでビレイされることになろうとは(※推奨しません)。ダイナミックロープじゃないし、万が一フォールした場合にロープが耐えうるのかも謎。垂直落下ではないから、仮にフォールしたとしてもそこまでの衝撃はかからないだろう、とはいえ足元を見れば80mくらい下まで切れ落ちている訳で。

確保がなかったらきっと登れなかったであろう難所をヒーヒー言いながらどうにか越え、草付きと岩のミックスを更に上がっていくと、岩伝いに沢へ降りられるかのようなステップがあるのが見えた。このまま降りられたらいいな、と淡い期待を寄せながら進むと、ステップが途切れて、その向こうには大きな滝がいくつもかかっているのが見えた。降りられもしない、仮に降りられたところでその先は滝が続いていて進めない。
引き返す前に1枚パチリ。
地形図にはこんな滝がいくつもかかっているなんて一切載っていなかった。となると、この先もどれだけ滝が続くのか見当もつかない。とりあえず見えていた滝はすべて越えて、地形図上の岩場マークが途切れたあたりをめがけて沢に降りるしか道はない。藪漕ぎの始まりだ!時間は朝9時半をまわったくらいだった。
岩場担当のワンさんに代わって、藪担当は私。地形図を2人で食い入るように見ながら、現れる急勾配と緩斜面を交互に攀じ登って行く。急な箇所では木の幹に半ばぶら下がるようにして腕で体を引き上げる。高巻きを始める直前に水を確保するのを忘れてしまったため、水は既に2人分で700mlを切っている。と、雨が降り出した。笹藪が横倒しになって地面を覆っていて滑るので、早々にHillsoundのトレイルクランポンを装着(初使用)。爪先のチェーンが刃に引っかかってしまってチェーンスパイクよりは着けにくいけれども概ね良好な使い勝手。
木々の間から見える筈の稜線の姿もガスで見えない。
たまに景色が見えてくれれば多少やる気も起きるというものだが・・・
大きく回り込んで尾根に乗り、そのまま上へあがらず下へも降りずにトラバースすれば、丁度右俣の岩場が終わったところへ降りられるだろうという予測のもと、藪を漕ぎ漕ぎトラバースしていたのだが、途中で沢筋を見付けてしまった。水こそ流れていないが、藪は少ない。ここを下っても沢に降りられるのではないか?しんどい藪漕ぎをここで終わらせられるのか?一縷の望みに賭け、するすると下っていくことにした。
途中で水が現れた。つつー、と岩場の苔伝いに流れる水をボトルに入れ、冷たい水を味わう。もうすぐ沢に出られる。崖の上に出たりしませんように・・・
抜けた!巻いた滝を振り返る。あと僅かでも手前で降りてしまっていたら滝だった。
しかしiPhoneのGPSを見てみると、右俣に降りたのではなく出合まで降りてきてしまっていることが判った。しかし右俣よりも左俣の方が水量もありそうだということで、とりあえず出合から左俣を進むことにした。
降りてきた右俣を振り返って。
気を取り直して進む
 しかし!
ガーン!
ここはどうにか右岸から登れた。とは言うものの、そんなに楽なわけでもなかった。滝上部の岩が、何故だか知らないが滅茶苦茶滑って全くフリクションが効かない。登り切ったワンさんにお助けロープを出してもらい、ぬるぬるゾーンは引き上げてもらう。
登り切った滝の上から、下を見下ろして。

僅かばかりの穏やかな渓相
と、穏やかなのは極く僅かな区間のみ。それ以外は立て続けに現れる滝、滝、滝、滝、滝。極めつけがこれか・・・またなのか・・・
 高巻きのコツは、高く巻きすぎないこと。なんて良く言うけれど、高く巻きすぎるくらい巻かないと巻けない滝はどうしたらいいんだよー!
写真左側が滝。ぼんやりとオブザベするも、無理とわかって諦めてガレを登る
上の写真が13時半、ようやく藪に辿りついた下の写真が15時半。何をしていたかって、悪い岩場の通過に2時間かかっていたのだ。ガレの上部に何があるか、少しは予想がついていた。いざ登ってみると、予想以上に悪いガレ、茶色くて脆くて若干のハングを伴ったガレに行く手を阻まれた。足元を見下ろすと、ここまで登ってきた悪いガレが沢までずっと続いている。登れても、ロープ無しでは降りられない傾斜。ロープをかけて懸垂できるほどの支点もない。進むしかない(本日二度目)。
+マークがあるあたりが高巻きの難所(だったと思われる)
今回はワンさんもフリーでは登らず、私がビレイすることになった。しかし私がセルフビレイを取っているのは180cmのスリングが回せる程度の不安定な岩、万が一ワンさんがフォールしたら私も岩ごと落ちる可能性が無い訳でもなかった。ここも午前中と同じく、完全な垂直落下にはならないから、そこまで負荷がかかるとも思えなかったが、安定しない斜面に立ってPASに体重を預けた状態でビレイをしながらワンさんの登攀を見ているだけでガタガタと震えが止まらなかった。万が一落ちたらどうしよう、と考えると怖くて仕方が無かったけれど、兎に角しっかりビレイをするということだけに集中しようと気を取り直し、ロープを握る右手に力を込めた。

ワンさんがホールドを探す度に岩は剥がれ落ち、私の頭上に大小問わず岩や砂が落とされた。ここぞと見付けたホールドに賭けて攀じ登ったワンさんを見上げながらロープを送り出す。その先の登攀ルートは左に曲がっていて姿は見えなくなったが、一番の難所は通過したと見え、ロープを繰り出す速度は少しだけ上がった。

セルフOK!の声が聞こえ、ロープアップが終わると今度は自分の番。確保してもらっているとはいえ、命を預けているのは僅か6.5mmのフローティングロープ。一般男性と比べて自分の体重は軽い筈だし、そうとはいってもロープが切れないという保証はない。とにかく落ちないこと。確実なホールドとスタンスを細かく探しながら登って行くと、ワンさんの姿が見えた。

ようやくここまで上がれた、という安心感と、ここから先どうなるのか全くわからない上に引き返せないという不安とが入り交じって複雑な心境。神経すり減らしての登攀を終えたワンさんを従えて、今度は再び私が藪係として先頭を歩くことに。藪は更に深い。
尾根を歩いてしばらくそのまま高度をあげる
ずっと尾根を歩き続けて双六南峰の尾根を目指してもよかったのだが、如何せん藪が濃すぎるので左へトラバースして等高線の幅の広い谷筋を上がろうということになった。トラバースした距離は大したことなかったのだが、兎に角藪が濃くて濃くて全然進まない。僅か200mにも満たないトラバースに一体どれだけの時間を費やしたことだろう。

目指したのと違う谷筋を何本か越えたところで、ようやくお目当ての谷筋に出る。雨はいよいよ本降りになってきて状況はよろしくないけれど、藪を抜けてようやく視界のきくところへ出てこられただけマシというもの。既に時刻は16時半。
 更に1時間以上進むと右手に雪渓が現れた。一気に気温が下がり、藪を抜けてガレが現れたと思ったら、今度はハイマツ帯に突入することになった。
ハイマツ漕ぎは30分くらいで終わったが、その間に進んだ距離はほんの僅か10mか、100mにも満たない程であったように思う。ハイマツって地面に這っているものだと思っていたけれど、実際はそうでもなくて胸の高さくらいまであった。これまで見てきたハイマツは、ハイマツのごく一部にすぎなかったのだなとぼんやり思いながら黙々とハイマツを漕いでいると、突然ハイマツ帯が途切れて平らな幕営適地が現れた。時刻は18時を少しまわったくらいだったが、このまま進めばメジャールートに出られて、ほどなくして双六小屋に辿り着いて、藪漕ぎで濡れた服も乾かせるかもしれない、と思って少しだけ進んでみた。しかしその幕営適地のすぐ先ではまたハイマツが行く手を阻んでいて、もうこの日はこれ以上は進めないように思えて立ち止まった。

この日一度目の高巻きで水不足を経験していたにも関わらず、二度目の高巻きでも水を汲み忘れて結局この夜は2人で300mlくらいしか水がなかった。ホットミールは諦めて、バゲットとチーズとカルパスをマヨネーズで流し込んで就寝することとなった。精神的肉体的に過酷すぎてあまりお腹はすいていなかったけれど、神経が高ぶりすぎてなかなか寝付けなかった。夜半には雨がザーザー降り、今頃金木戸沢は増水しているのかななどと想像していた。

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